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ラブホテルのベッドより、和彦の家のベッドがいいと何度も思った。
何回も行ったり来たりしたバスルームだってそう。 和彦の匂いがするシャンプーも、ボディーソープも無い。
あからさまにやらしい雰囲気の部屋の内装も、目隠しされてたから結局ほとんど楽しめないままに終わったけど、暗闇でかえって良かったかもしれない。
クラスメイト達は恋人が出来るとラブホテルで恋人と一夜を明かすと聞いて、何それ羨ましい!と悶々と膨らんだ夢がついに叶った今日。
恋人が出来たら一度はここへ来て、クラスメイト達みたいにウキウキな体験してみたいと思ってたけど……。
この部屋の雰囲気が和彦に合わないからか、俺がお坊ちゃまに染められて贅沢になっちゃったからなのか、夢叶って満足したものの結局場所なんてどこでもいいやってさっぱりとした感想を持った。
体がだるくて起き上がれなくなった俺は、今が一体何時なのかも知らない。
利用客保護のため窓は密閉され、覆いまで被されてる室内は灯りを付けているとまるで時間の感覚がないんだ。
分かるのは、和彦が「お仕置き」だって言ってた通り散々啼かされたって事だけ。
確かに和彦は我慢なんてしてない感じだったけど、だからって俺が意識を飛ばすほどヤリ潰さなくてもいいと思う。
……おかげで現在、俺は時間の感覚も鉛のように重たい体の感覚も、無い。
和彦に腕枕されて、薄いピンク色の天井を見上げてる。
互いの体液やらローションやらでベタベタだった全身は綺麗になってるけど、シーツが散々だから掛け布団の上に二人して裸で寝そべっていた。
「七海さんは良からぬ事を考えそうで怖いな」
「……何、急に。 良からぬ事って?」
激しかった数時間の行為にヘトヘトだった俺は、掠れた声で返答しながら和彦の方にころんと体を傾ける。
するとすぐにぎゅっと抱き締めてくれる和彦は、体がポカポカだった。
「僕が満足するようにうまくなりたい、ちょっと経験積んでくるから待ってて、とか平気で言っちゃいそうで心配です」
「あはは……! どうやって経験積むんだよ、俺が他の男とエッ……んんッ!」
あぁ、その話か。
経験値の差はどうしたって埋まらないから、まぁ俺が考えそうな事だと笑っていたら強引にキスされて面食らった。
ちゅっ、と音を立てて離れていった和彦の表情はムッとしていて、俺またお坊ちゃまの地雷踏んだらしいと分かる。
抱き締められている、というより体を締め上げられてるってくらいぎゅぅっと抱かれて、和彦の背中をペチペチ叩いて「痛い」と抵抗した。
「冗談でも言わないでください」
「わ、分かったから……! 痛いって」
「七海さんはこんなに可愛くて綺麗で、おまけにノンケの男への魔性が効果抜群なんですよ? 相手を探そうと思わなくても、七海さんはそのチャンスが向こうからやって来ます」
「そんな事ないって言ってんだろ」
「じゃあ今までお持ち帰りしてきた男達は何なんですか? 七海さんに夢中だったストーカーは? 僕の事を落とした魔性はどう説明するんですか?」
「………………っ」
それを言うなよー……! そんなの魔性でも何でもないって。
どうして毎回お持ち帰り出来ちゃうんだろって不思議ではあったけど、その時にそいつのお目当ての子が居なかったとか、きっとそういう理由だろ?
俺は一度だって体は許してないし、酒に酔って血迷おうとしてる男達にはちゃんと諭してきた。 ……それが全然通用してなかった事には驚愕したけどさ。
だからって、和彦が何度も言ってる魔性って何なんだ。
全部たまたまだってば。 とは思ってない、納得のいってない和彦の膨れっ面がさらに歪む。
「七海さんに意識は無くとも、視線がよくないんです。 お酒が入ると流し目になるし、うるうるしてるし、ほっぺた赤くして見上げてくるの、男はたまらないんですよ? ノンケでもつい「一夜を過ごしたい」と思わせてしまうのが、七海さんなんです」
「…………俺そんなノンケホイホイなの?」
「ホイホイって何ですか?」
「あ、ごめん。 お坊ちゃまは知らないよな」
たまに、いや度々感じる、庶民である俺とお坊ちゃまな和彦の感覚のズレ。
ムムッと怒った顔してたのに、俺が言った意味不明な単語に首を傾げた和彦は綺麗な面できょとんとした真顔に戻った。
面白いから説明しないで笑って誤魔化した。
酔っ払ったら誰でも目は潤むだろって、心の中だけで否定しつつだ。
「ほら、そうやって可愛く笑うでしょ。 見た目によらず真面目な性格も、問い詰められると慌てる素直なところも、男からすると高ポイントなんです」
「いや……俺も男なんだけど!」
「そうですね、時々とっても男らしくて惚れ惚れしますよ。 でも七海さんはネコちゃんで、男に愛されたいと思っていた。 組み敷かれて、ここに男の性器を受け入れて、たっぷり抱き締めてほしくて、何より愛されている実感が欲しかった」
お尻をさらっと撫でられて、危うく孔に指を挿れられそうになったから慌てて身を捩る。
綺麗になったはずのそこが、和彦の指先が近付いてきたってだけでキュッと疼いた。
ナントカ遮断で普段より感じやすかったけど、終始暗闇だったのだけは不満が残ってる。
和彦の感じてる顔が少しも見られなかったんだもん。
愛されている実感は、そりゃあ……目一杯あったけど。
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