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第3話

高田の話に 「っかしーな。俺結構あいつと飲んだり話したりしてるぜ。この前の月レクの飲み会の後もう1軒飲みに行ったし」 首をかしげれば 「それなんだよ。あの時若い連中は駅前にできたディスコに行こうってなってたのに秋元だけスッと消えてて後から聞いたらお前と飲んでたって言うんだ。そもそもディスコの話を出したのはあいつなのにだよ? 付き合いが悪いとか以前に何考えてるんだかつかめないんだよな。それになんで俺よりお前に懐いてるんだ?」 と大いに不服そうにしていた。本田にしてみれば直属の上司より他部署の先輩の方がそりゃ話しやすいだろうと思うし、遊び上手に見えて軟派なノリはあまり得意ではなさそうな秋元は会社の若い連中との付き合いはほどほどにしているように見える。女の子が3人しかおらず全体に工業高校みたいな雰囲気の自社は軟派組とオタク組に見事に分かれている。秋元はそのどちらにも当てはまらないようでいてそつなく人間関係を築きながらも本田たちみたいな年長組、といっても部長クラスを別にすれば本田と高田が32歳で最年長なのだが、と一緒の方が落ち着くらしい。そう分析して高田に話せばなんとなく納得はしたらしく 「ならこれからもお前があいつの事よくかまってやってくれよ。なんかあったら俺に教えてくれればありがたい」 高田は部下の面倒見がよく、妻帯しているにもかかわらず軟派系の多いパソコン課の連中にもプライベートでもよく付き合っている。部下との付き合いが会社内の行事だけにとどまっている自分とは大違いだと感心しつつ、ではなぜ秋元が懐く相手が他の年長の社員ではなく本田なのかという部分には解答がだせないでいるとポケベルの鳴る音がした。2人同時に腰のケースに手を伸ばせば鳴っていたのは高田の方で、表示されている番号を見て小さくため息をついた。 「ラ・ムーブだ」 パソコンの顧客であるラブホテルだ。それをしおに店を出ると公衆電話を探しながら歩いた。 「この前からブラウン管に画面が焼き付いて見づらいって言われてたんだ。24時間365日入退室画面がつけっ放しだからしょうがないんだけどな。どうにも暗くて見えないらしいから新しいモニターを発注してあるんだが納入が来週なんだ。最悪ウチのモニターを貸し出しだな。だれか運転できるやつ捕まえられるかな。おい、テレカ持ってるか? 俺のあと20度くらいしか残ってないんだ」 5分ほど歩いて見つけた電話ボックスの前でオフコンのメーカーからもらった若手人気女優の未使用テレカをくれてやりながら帰る旨を伝えれば 「たまにはまたこうやって飲もうぜ」 誘われて本田も素直にうなずいていた。高田はこれから、まだ飲酒前で運転可能な帰宅後の部下を探して引っ張り出し、会社のモニターをお客の所に持って行くのか。と気の毒に思いながら帰宅した。もう半年以上も前のことだ。

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