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第4話

高田のぼやきを思い出し隣を歩く秋元の顔を見るともなしに見やりながら、会社の近くにあるラーメン屋のガタピシする引き戸を開ける。深夜3時近いというのに週末の飲み会帰りらしい酔っぱらいで店内はいっぱいだった。どうにかカウンターに2人分の空席を見つけて確保し、本田は醤油ラーメンを、秋元はチャーシュー麺を注文した。 「お前いくら腹が減ってるからってこの時間によくここのチャーシュー麺食えるな」 この店のチャーシューは厚さが1センチ近いやつが5枚も乗っている。うまいのだがさすがに夜中に食べる気にはならないと本田は想像しただけで胸やけを起こしそうになりながら言うと 「若いですからね。何なら餃子もつけたいくらいですよ」 屈託のない満面の笑みで返事が返ってきた。本田はおしぼりで顔を拭きたい衝動を抑えながら 「うるせえ。悪かったなもうオヤジで」 軽く秋元を睨んだ。秋元は何がおかしいのかケラケラと笑いながら 「オヤジとは思ってないですよ。カッコいいお兄さんだと思ってますから」 笑いすぎて涙の滲んだ目元をおしぼりで拭きながら言った。 『カッコいいお兄さん』のセリフに動揺しながらも結局我慢できずに顔を拭いてしまい、こんなことをしてしまう自分はやはりもうオヤジなのだと軽く落ち込む本田の顔を覗き込みながら 「本田課長はちゃんと年相応にカッコいいです。無理に若ぶらない所がいいんです」 と失礼ともとれることを言ってくる。ふたつほぼ同時に出てきたラーメンをすすりながら 「どうだった? 元号が変わったのは俺たちもはじめてだったから勝手がわからなくてずいぶんバタバタしたけど、次の改元があっても今回西暦に統一したから二度とはこんな面倒なことにはならんと思う。体調を崩したりしていないか?」 本田はSE全体の事のつもりで言ったのだが秋元はそうは取らなかったらしく 「えっ? 俺の心配してくれるんですか? うれしいなあ」 にへらと本当にうれしそうに笑った。確かに学生時代にラグビー部だったという自分の所の新人に比べてひょろりと手足が長くまだ薄っぺらい学生っぽさの残った体形の秋元は体力面では社内一ひよわそうだからそう取っても構わない。 「ああ、おまえひ弱そうだからな」 言ってやればうって変わって不満そうな顔になり 「そんな言い方ないじゃないですか。別にひ弱じゃないですよ。これでもずっとテニス部だったし」 口をとがらせてすねる様は子供のようでほほえましかった。 「おお、悪かったな。今度の修羅場を乗り切ったんだ。弱くなんかないよな」 よしよしと頭を撫でれば顔を真っ赤にしてさっと避けられた。 「本田課長そういうとこ本当にずるいですよね」 秋元の言っていることの意味をつかみかねているうちに2人とも完食し、本田の払いで会計を済ませると外に出た。腹いっぱいで温まった体は先ほどのような寒さは感じない。本田はのどの渇きを覚えてラーメン屋の隣にある酒屋の外の自販機で缶ビールを買うと 「あーっ! いいなー。俺も飲みたいです!」 秋元が自分も財布を取り出したので 「お前は車で帰るんだろ。だめだ」 と止めると 「駅前のカプセルホテルにでも泊まります。我慢できません!」 と自販機のボタンを押してしまった。本田はため息を一つついて 「ならうちに泊まるか?」 と言ってしまっていた。本田のマンションはここから歩いて15分ほどの近さだ。 「いいんですか?」 輝くばかりの笑顔を見せて秋元が喰いついてきた。何かを早まったような気がしながらも頷けば 「この近くにコンビニできてましたよね。あそこでいろいろ買っていきましょう」 スタスタと歩き出した秋元のあとをさっき買った缶ビールを行儀悪く飲みながらついて行く。秋元も思い出したように歩きながらビールを飲み 「くはぁ~。うまいっすねー」 幸せそうに笑う。コンビニでつまみと追加のビールを買い、秋元は着替えの下着も買っていた。

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