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6-手業
震える小さな躰を抱き込んで、落ち着かせようとゆっくりと背中をなでる。
「君を人形にしたのは誰だ?」
「………」
清比古は口を固く結んだ。
頑なな様子に俺が「ふぅ」とため息をつくと、見捨てられるとでも思ったのか、清比古が口をパクパクさせながらすがってきた。
「大丈夫、言いたくなければ言わなくていい」
本当は、どういった関係にあった人物なのかだけでも知りたかった。しかし、清比古に無理をさせてまで知らなければならないわけではない。
「その人に教えられた事全てを俺がなぞって、清比古の記憶を俺で塗りつぶすよ」
「彬……」
すがる清比古の手に力がこもった。顔はぎこちなく歪んだままだが、目には明らかに喜びがあった。
「嫌かもしれないが、その人にふれられたところを全て教えてくれ」
「……全て……だよ。ふれられていないとこなど……ない」
笑みが消え、すがる手が震える。
「そうか」
労わるように優しく背中なでる。
しかしそれは清比古の望みとは違ったようだ。
「……昨晩みたいに……お願い……」
「ずっとあんな風にされていたのか?」
俺の言葉に清比古がヒクッとのどを鳴らした。
「ち……ちが……あそこまでは……」
つまりあそこまではなくとも、それなりにひどい扱いを受けていたという事だろう。
その記憶を塗り潰すために、それ以上の苦痛を俺に求めている。
しかし……。
「お願い……あきら……」
躊躇する俺に清比古が甘えた声でねだり、媚びた笑顔を向ける。
俺は沸騰した。
欲情したわけではない。
仕込まれた淫猥さで『そいつ』が喜んだのと同じように、俺もその気になるだろうと思っている清比古に対する怒りだった。
しかし結果、清比古の目論みは成功したと言えよう。
部屋を消灯し、ランプの灯りの下、昨夜と変わらぬ手荒さで清比古に赤い引っかき傷や噛み跡を残していく。
「んん……んぁ……!」
清比古も昨晩と同じように苦痛と快楽の声を交互に上げた。
その声はまだ演技じみてはいるが、人形に戻り媚びを振りまく頻度は格段に減った。
そして苦痛に顔を歪ませ、快楽に喘いだ後、小さく息をついて、なんとも言えぬ幸せそうな表情をする。
「あきら……ん……あきらぁ……」
清比古が甘い熱を帯びた声で、すがるように俺の名を呼んだ。
それは人形として仕込まれた声とも、普段の清比古の声とも違い、俺を沸き立たせた。
手荒な愛撫に清比古が疲れ、力無い姿を見せ始める。
俺はそれまでふれずにきた箇所に手を伸ばした。
己の雫でグッショリと薄い茂みを濡らす陰茎。
かつて浴場で見た、控えめに垂れ下がっていたモノとは違う。
大きさや根元の張りなどは幼さを感じさせるが、濃い桃色の先端はしっかりと張って皮から顔を出し、ヒクンヒクンと期待に大きく揺れていた。
明らかに快楽を知り、慣れた様子に、俺は興奮と苛立ちを同時に覚えた。
陰茎の周囲に手をはわし、清比古の反応を見る。
「……」
モソモソと足が動き、期待含みの視線が来た。
それを確認し、俺は清比古の起立に指をからませた。
「ぁ……ぁあ…あきら……ン……ん」
荒い息と切羽詰まった声音。
手の中のモノが硬く弾んで脈打つ。
これまでの乱暴な愛撫で充分高められているのだろう。清比古の陰嚢がコロンと固く膨らんでいた。
「まだココはふれたばかりだぞ」
敏感な陰茎の先端を手のひらで包み、根元を指で摘みさする。
「ぁぁっっ……んーー!」
さらに優しく手のひらで陰嚢を転がせば、清比古はビクンと腰を跳ねさせ、幼い陰茎に似合わぬ力強さで、自分の顔にまで液を飛ばした。
「はぁっ……ゼィ……はぁっ…はぁ!」
息を乱し、眩しそうに細められた目は夢見るようで、なんとも言えぬ艶を帯びていた。
「あ……離さないで」
飛んだ精液を拭き取らねばと身を起こそうとするのを清比古が止める。
「……お願いだ……もう少し寄り添っていて」
控えめに乞う、羞恥のにじんだ表情が、なんとも清比古らしく、いじらしい。
射精したばかりの陰茎と陰嚢を慰めるようになでる。
すると清比古は、またあの淫らな笑みを浮かべて、鼻に抜ける女のような声を漏らし始めてしまった。
「ああ……彬……」
清比古の手が寝間着越しに俺の昂ぶりにふれた。
「ん……んんっ!」
すぐに下着の中にまで侵入し、清比古の痴態に昂ぶった陰茎に細い指を絡みつかせる。
あまりに慣れたその手つきに苛立ちながらも、性経験などない俺に争 うことなど出来る筈もなく、あっさりと快楽に流されてしまった。
頭に血が上り、何も考えられなくなる。
俺と同じく興奮に乱れた清比古の息遣いばかりが妙に耳についた。
清比古のものと比べれば、かなり大きなソレを、小さな手が器用にすりたてる。
巧みな手業 を繰り出されれば、俺などひとたまりもない。あっという間に熱い液を飛ばす羽目になった。
グッタリと躰を伏せ、荒い息を落ち着かせていると、清比古は己の手についた精液をしげしげと眺め、口のはしをフイッと上げた。
首筋にくらいつきたくなるような、淫猥な笑みだ。
「清比古……何を」
座り込んだ清比古の赤い舌が、精液に濡れた手のひらに伸びた。
ペチャ……ペチャ……。
興奮した息さえ漏らし、指の股まで丁寧に舌をはわす。
それに満足したのか、興奮を納めるように小さな胸を上下させた。
俺はその様子をただ唖然と見ていた。
清比古は痣だらけの躰に寝間着を着こむと、さらに突飛とも思える事を言ってきた。
「昇降口に付き合って欲しいんだ」
俺は乞われるまま、わけもわからず皆が寝静まる寮の廊下を歩いた。
息を殺し、足音をひそめる。
わずかに灯りの気配のある部屋もある。まだロウソクの灯りで勉強をしている生徒がいるのだろう。
大きな扉のある昇降口は一段と冷える。
そこで清比古は手にしていたランプに火をつけた。
明かりに照らされ昇降口に人の姿が浮かぶ。
登校時に身だしなみを確認するための大きな姿見に、図体の大きな俺と華奢な清比古が寝間着姿で映っていた。
「どうしてこんなところに」
声をひそめて聞くが答えはない。
清比古は鏡の中の自分たちを確認すると、いきなり寝間着を脱ぎ始めた。
「っっ……何を」
止める間もなく鏡の中に全裸の清比古がいた。
あちらとこちら、痣だらけの無残な躰が二つ。たまらず目をそらした。
けれど清比古は嬉しそうに己の姿を眺め、痣を指でゆっくりとたどる。
「彬がつけたんだ。これは彬が僕にしたんだ」
小さな声だったが俺は慌てた。静まり返った廊下に響いた声が誰かに聞こえてしまわないとも限らない。
「寝間着を着ろ」
もし様子を見に誰か来てしまったら……。
俺は気が気ではなかった。
しかし清比古は幸せそうに鏡の裸体を見つめている。
寝間着を着せようとすれば、腕に抱きつかれた。
「あきら……」
甘えた声に、俺の胸は容易く高鳴ってしまう。
清比古の下着を拾って彼の足元で広げれば素直に足を通してくれたが、クスクスと楽しそうな笑いを漏らして、また俺をハラハラさせる。
次は上着。清比古は子供のように俺に服を着せられるのを楽しんでいるようだ。
冷えた躰にどうにか寝間着を着せ、部屋に戻るよう促すが、俺の腕に絡みついて離れない。
「戻るぞ」
仕方なしに清比古を抱き上げると、温もりを分け与えながら凍えた廊下を足音をひそめて部屋に戻った。
布団に下ろしても清比古は子供のように俺にしがみついたままだ。
引き離すのはあきらめ清比古を抱いたまま横になる。
清比古に振り回され、疲れてしまっていたからだろう。
俺は昨晩までより深い眠りに落ちていった。
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