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8-愛しさと後ろめたさと

清比古の口から猛るモノを抜き、優しく頭をなでる。 「そんなに好きなら……また『あの男』のモノを咥えたい?」 清比古このように仕込んだ、俺の知らぬ誰か。 その人物の事を言えば、清比古は喉をヒクッと引きつらせ震え始めた。 「あ……彬……お願い。僕は……僕は淫乱だよ。ちんぽが大好きなんだ。だから彬の……彬の……」 激しく震える手で俺の陰茎を握り、一気に深く咥えると、痛々しい作り笑顔で俺を見上げる。 俺がそれを口から引き抜くと、清比古は必死で腰にすがりつき、再び口に押し込んだ。 「清比古、もういい」 その口から俺の気持ちに反して萎えることのない陰茎を抜いた。 そして優しく抱き起こして慰めようとするが、清比古は俺の腕から抜け出そうと暴れ、ひざまづいて再び口に入れようとする。 「お願い…させて……彬……あきら……」 俺は暴れる清比古を抱き上げると布団に押し込んだ。 裸のままいた清比古は人形のように冷たくなってしまっていた。 しかし痛々しい笑顔を浮かべる清比古は寒さなど気にならないようだ。 「清比古、どうして……」 「だって、彬は……彬だから」 「わからないよ。なぜそこまでしなきゃいけない」 清比古の作り笑顔が凍り、瞳に闇が落ちた。 「(にお)い。……鼻の奥に……何度も思い出して……」 言いかけた清比古はすぐにハッとして、再び(いつわ)りの笑顔を貼り付ける。 「僕は淫乱な人形だから……それにふさわしいやり方で彬に壊して欲しいんだ」 下手な誤魔化しに付き合うべきか一瞬迷った。 「わかった。二度と『あの男』を思い出せないように、俺の匂いを清比古に染み付けてあげるよ」 わざと『あの男』と付け加えれば、清比古の顔がぐしゃりと歪んだ。 「ありがとう……」 これが本当に礼を言われるようなことなのか、俺にはわからない。 けれど、ただ忘れさせるだけではなく、『あの男』に勝ちたいという欲が俺の中に生まれていた。 清比古の濡れたまなこは期待を持って俺を見つめている。 布団の中で仰向けになっている清比古の顔の上にまたがった。 するとすぐに清比古の小さな手が、俺の陰茎をその愛らしい口へと運んだ。 「はぁ……彬の匂い……」 陰茎を咥えた口の隙間から満足げなため息をつくと、ちゅちゅ……と軽く吸って俺の興奮を誘う。 それだけで簡単に俺は快楽に流され、今度は清比古に味わせるようにゆっくりと腰を上下させた。 「ん……はぁっ……清比古……」 すでに一度射精しているため、随分長くもっている。 そしてその分快感も大きかった。 幼い清比古の顔をまたぐと支配欲を刺激され、俺の中で酷く扱ってしまいたい気持ちと優しくしたい気持ちがせめぎ合う。 しかし清比古は俺に酷く扱われることを強く望んだ。 「ん……らいじょぶだから……グフ…もっと……あきら…ぁ……」 俺の躰をなで口を激しく犯すよう促し、むせて咳き込んでも嬉しそうしゃぶって放さない。 「あきら……あきら……」 くぐもり、絡みつくような甘えた声だ。 愛おしさが溢れ、もっと、もっと激しく快楽を追い求めたくなる。 けれど我を忘れてしまってはいけない。 口から俺のものを抜けば、大きく息をつきながら顔が己の唾液と俺の体液で濡れるのも厭わず、愛おしげに怒張に頬ずりをする。 夢の中を漂うような目つきで舌を伸ばすその姿は、躾けられた作り物の媚態とは思えない。 偽りなく俺だけに向けられた清比古の色欲……そう思うのは自惚れだろうか。 「本当はこんなモノ好きではないんだろう」 清比古の唾液でテラテラと光る陰茎で頬を打った。 「もう……大丈夫。好きだって思える。僕はどうやら本当に淫乱だったようだよ」 言葉に合わぬ、朝露に濡れた花が咲くような艶めく笑顔。 思わず抱きしめたくなる。 淫らなのに清純。これが偽りのない清比古の顔なのだろうか。 「っ…はぁ……清比古、そろそろ気を遣りそうだ」 「ん……」 清比古は丁寧に舌をからめ、まるで逃すものかとでもいうようにキュッと吸いつく。 「清比古、俺を見ろ」 潤んだまなこが俺を捉え、揺れる。 俺を強く求めるその視線だけで、これまでを上回る快感が躰を駆け上がった。 「……出る」 わざと口の奥深くに突き立て精液を放つ。 「んっ……んんんっ……!」 それを必死に清比古が受け止める。 ゴクンと喉を鳴らし飲み下したあと、背中を丸めてゲホンゲホンとむせ始めた。 「大丈夫か?」 骨の浮いた背中をなでると、清比古は顔を覆った手の隙間から嬉しそうに笑っていた。 「ふふ……むせた……」 ほっと息をついた清比古が俺の首にすがりついてくる。 「あきら……彬……」 熱のこもった声で名を呼ばれ、今しがたまで手荒に扱っていた小さな躰を優しく抱き込めば、清比古の手も俺を抱き返す。 射精後の気だるさのなか、湧き上がる愛しさと後ろめたさで形容しがたい心持ちになった。 俺の放った欲望が、口を満たし、喉を通って、清比古の中にあるのだ。 そう思うと己の酷い行いなど忘れたように充足感が湧いてくる。 「僕の全部……彬で埋め尽くしてくれ」 熱のおさまらぬ清比古の手は、俺の髪をかき混ぜ、細い足が腰に絡みつく。 「彬……ぁ…ふ……」 (なま)めかしい吐息が耳をくすぐり、擦り付けられる躰はどんどん熱を増していくようだ。 「清比古……?」 「お願いだから……彬……お願いだ」 清比古は先ほどからねだるような仕草を見せ続けていた。 その意図を図りかねていた俺は、腹に清比古の熱く硬い湿りを擦り付けられて、ようやくその意味に気がついた。 このように友人関係を逸脱する行為に至ってなお、俺は清比古とその一線を超えるという可能性を考えていなかったのだった。

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