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9-たわむ
寮で生活していれば、男同士で関係を結んでいるという噂を耳にすることもあり、仲間内の雑談の中で大雑把にだがやり方も知識として得ていた。
しかし『女色に溺れるくらいなら男色に耽溺する方がマシだ』とする前時代的な考えは、俺には堕落の言い訳だとしか思えず、互いを成長させるのに有益だという考えも、強い友情関係により充分成長を促進できると実感すれば、男色を価値あるもののように言う者たちは、若い性欲を満たし肛門性交を行うために理屈をこね、体面を取り繕っているに過ぎないのだと軽蔑していた。
稚児 趣味の軟派などもってのほかで、俺にはその気のない清比古を稚児にしようとする上級生から守ってきたという自負があったのだ。
腕の中の清比古のしっとりとしたきめ細かな肌が、今更ながら生々しく迫ってくる。
熱い躰、乱れた髪、上気した頬、先ほどまで俺を咥えていた唇はランプの明かりを受け怪しく光っていた。
「清比古……」
指先で頬から顎、首をなでれば『はぁ……』と甘く吐息を漏らし、熱っぽい目で俺を見つめる。
人形としての媚びた笑顔などなくとも、清比古には男を惑わす艶があった。
俺の中で動かしがたいものであったはずの『一線』が、いとも簡単にたわんでいく。
「彬、早く。僕の全てにふれて」
俺に抱かれることを当たり前だと思っている、真っ直ぐな眼差し。
清比古にとってこれは、ただ性欲を満たすための行為ではないのだろう。
昨晩の会話が思い起こされた。
––––嫌かもしれないが、その人にふれられたところを全て教えてくれ
––––全てだよ。ふれられていないとこなどない
少し考えればわかることだ。
なのに俺は、俺の知らぬ誰かが清比古の後ろを拓き、快楽を得ていたという明白な事実から、できうる限り目を背けようとしていたのだ。
この期に及んで気付かぬふりをしていた自分と、清比古を玩 び人形にした男に、沸々と怒りが湧く。
今、俺が清比古を抱けば見苦しい嫉妬心に駆られた結果ということになるだろう。
……そうだとしても。
清比古のためになら、俺は堕落したって構わない。
勢いに任せ清比古を貫きたくなる。けれどそれをぐっと我慢して、か細い首に唇を寄せた。
ドクドクと打つ血管をチュッと音を立てて吸えば、清比古が敏感に小さく震える。
今の清比古には作られた笑顔も媚もなく、もう『あの男』の人形ではない。
それでもまだ過去の記憶に縛られ苦しむ清比古を、彼の望む形で満たしたい。
そのためには清比古の色香に惑い、快楽に溺れて我を忘れてしまうのだけは避けなければいけない。
清比古の後ろに手を伸ばす。
入り口をなぞればぎゅっと身を縮め、俺にしがみついた。
俺の腹にしきりにすりつけられる清比古の陰茎はしとどに濡れている。若々しく弾けんばかりの昂ぶりに伝うぬめりを指にからめると、期待に熱くなっている清比古の後ろに差し込んだ。
「は……」
清比古が息を飲んで、俺の指を感じている。
俺も初めてのしっとりとした感触にたまらない興奮を覚えた。
固かった蕾はすぐに緩み、二本差し込んだ指でクッと割り開くことができた。
けれど……。
おそらく不快な記憶を呼び起こされたのだろう。
「いや……いやだ!やめ……」
グッと腕を伸ばして身をよじり、指から逃げる。
刺激しないようゆっくりと指を抜けば、今度は慌てて俺の腕をつかんだ。
「ごめん、彬……やめないでくれ…嫌だなんて言わないから」
「落ち着け。嫌なら言ってくれて大丈夫だ」
「だけど……そんなこと言ったら……。彬、僕を見捨てないで……壊して」
「見捨てるだなんて……」
清比古はすでに『男』に作られた『人形』ではなく、『素の清比古』として俺の前にいるように見える。
しかし『人形であった清比古』を完全に壊してしまうには、清比古自身で自らの変化を感じとる必要があるのだろう。
「間違いなく君をバラバラに壊して、綺麗に組み立ててあげるから。俺にどうしてほしい」
強く抱きしめ、柔らかな唇を吸えば、清比古から不安の影が少しだけ薄れた。
「僕の中を彬で満たしてくれ」
「だが……いきなりじゃ……痛むだろう?」
浅い知識だが、大した準備もせず突っ込まれれば飛び上がるほど痛むだの、切れてしばらく大変だのという話は聞いていた。
「構わないよ。こんなこと心地いいわけはないんだから、むしろ痛いくらいでちょうどいい。それに風呂で綺麗にしているから君が心配することはないよ」
かすかに顔を歪め、さも当然のように言う清比古が悲しかった。
性交は清比古にとって苦痛でしかないのだ。
苦痛に耐え、悦ぶふりを強いられ、清比古は教えられた事をなぞるだけの人形になった。
そんな哀れな清比古が愛おしくてたまらない。けれど同時に『あの男』の与えた苦痛を再現しろと言われた事に強く苛立った。
仰向けの細い腰を高く持ち上げ、支えるため背中の下に膝を差し込む。
足を肩にかければ、反り返った細い陰茎と、小さな窄まりが俺の顔の前にあった。
改めて間近で見た菊門は慎ましく、本当にこんなところに入るのか心配になる。
清比古の目を見つめれば、二人の視線の間で幼さの残る陰茎が震え、羞恥に頬を歪めるさまに劣情をかき立てられた。
ためらいは消えた。
たしか、経験の少ないうちは指よりこちらの方が良いと聞いたことがあった……。
俺は清比古の濡れた桃色の窄まりに、ソロリと舌をはわせた。
「え……」
清比古が目を見開いて宙に浮いた足をビクリと揺らす。
どうやら『あの男』に、ここを舌で愛撫されたことはないようだ。
俺の顔の後ろで暴れる足が、清比古の戸惑いと快感を教えてくれる。
「ぁ……ぁあっ!」
滑らかな尻にあごを埋めて、敏感な窄まりを舌先で割れば、清比古が艶めく悲鳴をこぼした。
『心地いいわけはない』と言い切った清比古が、打てば響くように快感を知らせる。
つたない舌技だけで『あの男』の影が薄まり、清比古に『俺』が染み込んでいくのをまざまざと感じられた。
胸を満たす満足感は舶来の芳醇なぶどう酒のようだ。
支配欲と清比古の躰に酔って、我を忘れてむさぼりたい。けれど、それにはまだ早すぎる。
「ぁぅんんっ……そんなとこ……」
「洗っているのだろう?大丈夫だ、俺も歯は磨いている」
いや、それは先ほど清比古に接吻した時に言うべきだったか。
「そういうことでは……!ぁっ……ひっ……ぁあっ!」
チュッと吸って、めり込んだ舌の先端をうごめかせれば、清比古が声を震わせ、ヒクンヒクンと腰をゆらした。
「はぁぁっっ……ぁあっ嘘だ……!こんな……彬が僕なんかの……!」
大きく舐め上げれば腰が大きく揺れ、尖らせた先端でつつけば身をすくめて小さく震える。
「やめてくれ……彬はこんなことしなくていい。僕を気持ち良くさせる必要はないから、壊すだけでいいから」
手で窄まりを隠し必死に拒絶する。
つまり我慢できぬほど心地いいということに違いない。
俺が清比古の指の間に強引に舌を差し込み、さらに舐めれば、艶めかしく腰をくねらせ、眉根を寄せて切ない声を漏らした。
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