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第39話

好きな人には好きな人がいました なんて、よくある話。 「俺の恋人なんだ。仲良くしてやってな」 嬉しそうに紹介する彼 隣でよろしくと微笑む彼の恋人 カラカラの喉から、無理やり声を絞り出す ゙よろしぐ 頬が引き攣っている自覚はある 歪な顔をしている自覚もある それでも、今の目一杯はこれだから 祝福なんてできないし、仲良くなんてできない でも、彼が望むから 彼の恋人はとてもいい人だった いつも笑顔で、誰とも分け隔てなく接していて 時々クッキーなんか持ってきてくれたりした 愚痴を言い合ったりなんかして、休日に出かけたりもした 一緒に彼をからかったり、お泊まりをしたこともあった 彼の恋人はとてもいい人だった 俺の心情なんか知らないで、笑いかけてくる 羨ましくて、ずるくて、幸せそうで、羨ましくて羨ましくて羨ましくて、虚しくて でも、楽しくて 嬉しくて、幸せで、彼のそばにいれて、楽しくて 彼の恋人と交わすやり取りが、面白くて 彼の恋人と一緒にいれば、彼も一緒にいてくれるから ありがとうって笑ってくれるから 楽しそうに笑ってくれるから 頭を撫でて、これからもよろしくなって言ってくれるから 俺を見てくれるから 「……こんなせつなくて、あたたかい気持ち、初めて知ったんだ」 もう、辛くて 「好きだよ」 泣きたくて 「さようなら」 消えたくて いつか、彼も、彼の恋人も恨んでしまうから 憎んでしまうから もう、終わりにしよう

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