5 / 130

第5話

そして、広瀬は指定の喫茶店で高田と向かい合っている。 オリジナルブレンドは香の良いコーヒーだった。広瀬は口をつけた。 高田は、自分の今の仕事の話をした。 勤め先の会社は、企業と契約しコンサルをしているということだった。取引先には誰もが知っている大手企業もいるようだ。 物理的な防犯対策や従業員が犯罪に巻き込まれた時、犯罪を侵した時の対応、反社会的勢力への対応などがメインの仕事らしかった。 「最近は、法令順守とか企業統治とか、企業がやらなきゃいけないことがいっぱいあってしかもどんどん厳しくなってる。全部社内でやるのは難しいから、アドバイスしたり、実際に教育や対策をたてるような仕事が必要になるんだ。ネット社会は、従業員本人が悪気なくSNSで書き込んだことが、結果的に訴えられたり、犯罪につながりかねないことになったりするしな」 会社には既に社員も数名いるらしい。みな警察出身者だ。気心が知れた仲間同士でやっているということだった。 高田を誘った同期の男が社長なのだという。 高田は専務取締役の名刺を広瀬にくれた。 収入も警察にいたときよりも格段にいいらしい。 組織のうるさいしがらみもない。人手不足のため忙しいというところだけが大井戸署に勤めていた時と一緒とのことだった。 広瀬を安心させるためなのか、高田はかなり詳細に今の職場の内容を教えてくれ、さらに自分が満足していることを説明してくれた。 ひとしきり自分の話をした後、高田が質問してきた。 「それで、広瀬は今どうしてるんだ?」 「今は」と広瀬は口ごもった。何をどこからどう話をしたらよいのかわからなかったのだ。 「仕事はしているのか?」 「いえ、求職中です」と広瀬は答えた。 「そうか。見つかりそうなのか?」 広瀬は、また言葉に詰まる。

ともだちにシェアしよう!