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第6話
高田は、広瀬が無表情で返事をしないのに慣れている。しばらくの沈黙の間、彼はなにも言わなかった。
広瀬は言葉を探しながら、今後どうしようか迷っているんですと、と言った。高田はゆっくりうなずいた。広瀬の悩みは当然だ、という感じだった。
「社会性貢献度の高い、刺激の強い仕事をしてきたから、そうじゃない仕事は想像もできないだろう」と高田は言った。「民間企業の職種一覧みても、具体的に何をやるかは、ぼんやりしかわからないしな」
広瀬は曖昧にうなずいた。
このところずっと、家でぶらぶらしている。ゆっくり寝たり、本を読んだり、映画を見たりと、毎日、気の向くままに、時間を消費しているのだ。
心の中では、なにかしなきゃ、と思ってはいるので、今後を問われれば仕事は探していると回答している。
だが、転職サイトを見たり登録したりとか、積極的には動いていない。
先日、後見人のような役割の橋詰が、知り合いの財団の事務を紹介してくれた。
話を聞きにいったのだが、ほぼ仕事なんてないような暇そうな職場だった。
日がな一日机の前でわずかな入力作業や書籍や新聞・雑誌の整理をして、後は、同じように暇で財団に顔を出してくる人たちの、茶飲み話につきあうといったことが仕事だった。
広瀬は、自分がそこで仕事をするのが想像できず、橋詰にやんわりと断ったのだ。
橋詰は、特に気分を害することもなく、他を探すといって、また、いくつか候補を送ってきてくれている。他にも、広瀬がオジサンたちと呼んでいる広瀬の亡父の友人たちも仕事を探してくれている。
紹介されるのはどれも給料は悪くなく、当たり障りのない仕事ばかりだ。
みんな広瀬のことを思って仕事や生活を支えようとしてくれているのだ。
だが、申し訳ないなと思いながらも広瀬は決めかねずにいた。職場訪問も面接も、ずるずると先延ばししてしまっている。
身体が元気になればなるほど、仕事をしたい気持ちは強まっている。自分にできることやできそうなことを考えると、このまま橋詰たちが勧める楽な職場に就職することがためらわれてしまうのだ。
だが、そうはいっても、具体的にやりたいこともない。できることも考え付かない。
東城にこれからの仕事や生活の相談をしても、そんなあわてて職探ししなくたっていいだろ、しばらくゆっくりしろよ、どうしても仕事したいんなら、家族が経営する医療法人の事務方の楽なポストを探してやるよ、と、橋詰たちと同じようなことを返されてしまうのだ。
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