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第7話

言い渋る広瀬に高田は仕事のことはそれ以上聞いてこなかった。 そのかわり、広瀬の育ての親の伯父夫婦や親戚の近況、大井戸署で親しかった宮田と最近会っているのか、といったことを質問された。広瀬は、言葉少なではあるが、できるだけ答えた。 そんな会話をしていると、喫茶店の扉につけられたドアベルのカランカランという音がした。 高田が扉の方に顔を向けるので広瀬もつられてそちらに視線を送った。 入ってきたのはスーツ姿の白髪交じりの男だ。その男も高田の方を見た。 目尻をわずかに下げ、笑顔を浮かべている。 そして、まさかと思ったがこちらの方に歩いてくる。 背筋がピンとして姿勢がよく、歩幅も大きい。 男は当然のように高田の席の横に立った。 高田も特に驚くこともなく席から男を見上げている。高田の知り合いということに間違いない。 どういうことなのか、さっぱりわからなかったが、広瀬は立ち上がり、礼をして挨拶した。 下げた頭の上から、「白石です」と男は名乗った。 目をあげると名刺を差し出された。 高田の名刺と同じ社名で、肩書には代表取締役社長と書いてある。 広瀬は、両手で名刺を受け取り、まじまじとみた。社長さんがなんでここに来ているのだろうか。 白石は、ひょろりとしている高田に比べると恰幅がよく、首が太く肩が盛り上がっている。猪首というやつだ。格闘技をやっていたか、今でもやっているタイプだ。 耳がつぶれているところからすると寝技系だろう。見た目、かなり強そうだ。 じっと見つめてくる小さい目は、活力があり、広瀬に興味をもっているようだった。 広瀬は、はっと気づいて、自分の名前を名乗った。 「広瀬といいます。高田さんの、大井戸署での部下でした」名刺がないことを詫びようと思ったが、その言葉は遮られた。 「はじめまして。広瀬くん」と白石は言った。「どうぞかけてください」

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