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第9話

家に帰りつくころには、夜になっていた。 まだ、東城は帰ってきていない。 広瀬は、自分の部屋で、もらった会社案内と白石が書いたというソフトカバーの本をしげしげと眺めた。 本は、企業と犯罪防止についてで、表紙にはビルの写真、表紙の折り返したそでの部分には白石の顔写真がでている。 会社の宣伝も兼ねての本らしい。仕事の内容が書かれているから、興味があれば読んでみて欲しいと渡されたのだ。 白石の言葉が頭の中で繰り返される。 『広瀬くんのことは、熱心で真面目に仕事をする人だと高田さんから聞いていました。うちの仕事は、地味でコツコツしたことも多いです。広瀬くんのように、地道な業務もいとわずやってくれる信用のおける人を探しているんです』 大袈裟なお世辞だ。 でも、なんのために。 そんなに人手不足なのか。誰でもいいから来て欲しいくらいに。 でも、だったら、あんなこと、言う必要ないはずだ。 頭の中で肯定と否定が繰り返される。本当に必要とされているんだ。いや、盛り過ぎの社交辞令だ。 どちらでもよい。 大井戸署で迷惑ばかりかけていた高田が、自分を、勤めている会社に推薦してくれたということが、飛び跳ねて叫びだしてしまいそうなくらいうれしかった。 実際には、そんな感情を爆発させるようなことをする習慣はないので、椅子に座って、貰った資料や本をじっと見るだけだったが。

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