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第10話
その日は一日中、東城は仕事を早くきりあげ、帰りたかった。
だが、昼間から予定していない新しい仕事がどんどん舞い込んで、段取り通りにはいかず、結局、家についたのは夜遅くになってしまった。帰るときに広瀬にSNSで連絡を何度かしたが、相変わらずで返事はない。既読にもなっていない。
新しいスマホを買った時、アプリを入れて、定期的に見るように言い含めたのだ。だのに。なんだってあいつは一向に見ようとしないんだ。
今日、高田に会っていたのだ。どんな話をされたのか、だいたい、ちゃんと帰ってきたのだろうか、いらない想像が頭をかすめる。
裏門から庭に入り、家を見上げると、二階からは灯りが漏れてきている。
家に帰っているようだ。ほっとしながら玄関の鍵をあけ、中に入った。
遅い時間なので寝ているのかと思ったら、リビングにまだ広瀬がいた。ソファーに座ってなにやら読んでいたが、東城に気づくと目をあげて立ち上がる。
落ち着いた白系色のオーガニックコットンの部屋着を着て、素足にスリッパをはいている。
家の中ですっかりくつろいだ風情に、思わず安堵の笑みを浮かべてしまう。彼が当たり前のように家にいて、リビングにいる。
幻想ではない証拠に、呼びかけると返事をしてくる。
「ただいま」と彼は言った。「起きてたんだな」
「おかえりなさい」と広瀬は答えた。
東城は少しかがみ、頬にキスをした。さらに、そのまま、唇をずらしながら何度もキスをして、しまいには広瀬の唇に重ねた。
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