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第11話

広瀬は目を閉じる。軽く抱きしめて、キスをした。 「待っててくれたのか?」と東城は言った。「先に寝ててよかったのに」 耳朶を軽く噛むと、反射的にふるっと身体をゆらせた。 東城は広瀬の反応を楽しみ、何度も耳を食んだ。 感情を表に出さず、なめらかな白い肌で陶器の人形のように澄ましている恋人が、こんな風に、形の良い耳に血を集め赤くなっていくさまを、東城は好んでいた。彼が未だに示す、ためらいや羞じらいが愛おしい。 このままここで、服を脱がせ、抱いてしまおうか、と思ったがやめた。 広瀬が赤くしている首筋から、ほんのりとボディーソープの香りがしたのだ。 方や自分は一日中動き回って、汗や埃にまみれている。 清潔にすみずみまで洗いあげた広瀬に、昼間の仕事の汚れをつけるのがためらわれた。 まだ、寝ないよな、と念押しして、急いで浴室からあがると、広瀬はちゃんとリビングのソファーに腰かけていた。眠そうな様子もない。 東城は、冷蔵庫からもってきたビールをグラスに注いだ。 耳や首を染めていた赤い色はもうなく、また、何やら本を読んでいた。先ほどは気づかなかったが、ローテーブルにはノートPCや何かのパンフレットも置いてある。 調べ物をしていたのだろうか。 東城は、広瀬にビールを飲むか?と聞いた。広瀬は首を横に振り断ってきた。

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