16 / 130
第16話
数日後、広瀬は午前中に床屋に行き、やや長めに伸びた髪をさっぱりと切り整えた。
家に戻ると白いワイシャツに落ち着いた紺色のネクタイを結び、スーツに袖を通した。
それから、昨日用意した履歴書に目を通し、間違いがないかを確認し、封筒に入れると、黒いビジネスバックにしまった。
高田に会った翌日、再度連絡があり、就職することに興味があれば会社のオフィスを見に来て欲しいと言われたのだ。できれば、もっと詳細をつめたいので、履歴書ももってくるように、とのことだった。
正式な採用への誘いだった。
白石の本を読み、会社の情報もネットで集め、仕事のイメージは抱いていたので、広瀬は即座に訪問に同意した。
身支度をすませると、昨日自分でピカピカに磨いた黒い革靴を履いた。
庭を抜け裏門から外に出る。空を見上げると晴天だった。
太陽がキリっと輝いている。いつもと違う日常が開けるようだった。
会社のオフィスは、地下鉄の駅に直結した真新しい高層ビルの中だ。中層階の広いワンフロアの一角にタイセクトーンのシャープなロゴの入った受付があった。
受付の内線をかけると、若い男性の声がした。高田との約束の旨を伝えるとややトーンが明るくなり、「お待ちしてました」と言われた。
受付の椅子の前で待っている間に、周囲を見回す。ドアはカードと暗号キーの認証になっている。見えにくくしてあるが小さな監視カメラもあった。セキュリティにはかなり気を使っているようだ。
しばらくするとドアが開き、高田が顔をみせた。笑顔で出迎え、奥に入れてくれた。オフィスには白石と先ほど受付電話にでた若い男性がいた。他の社員は外出しているらしい。
広瀬は、応接室で話をし、社内を案内してもらった。
必要なことを話終え、帰る前に、いつから出社できそうか、と白石に質問された。
広瀬は、「明日からでも大丈夫です」と答えた。白石たちがよければ、本当にそうするつもりだった。
ともだちにシェアしよう!