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第17話

広瀬が家に帰った時、東城から帰宅時間の連絡が入った。彼は、いつも通りまめに連絡をしてくる。広瀬も、今日は、わかったと返事をした。 東城に仕事を始めると言わなければならない。 そして、キッチンで広瀬は東城と向かい合っていた。広瀬は片手に湯呑を持ったまま。東城はまだスーツ姿だ。 熱いお茶をいれてしまったので湯呑を持つ手が熱くなってきているのだが、空気が急に張り詰めたので、動けなくなったのだ。 熱いな、と思いながら広瀬は東城の声に耳を傾ける。 「高田さんの会社?」と東城は聞き返してくる。「高田さんの会社ってなんだよ」 だが、その言葉は用意していたようだった。驚く様子はさして示さなかった。 この前広瀬が高田と会った時に、社長の白石が出てきたと聞いていたことから、薄々そんな話だろうと思っていたのだろう。 予測はしていたが、実際に広瀬から聞いて眉間にわずかに皺をよせ、いつもより低い声だ。 彼は、急速に機嫌を悪くしている。 夜に帰ってきた東城は、キッチンでお茶をいれる広瀬をみて、すぐに、髪を切った理由を聞いてきたのだ。 元々東城には言わなければならないと思っていたから、今日、高田の会社で面接に行ったことをすぐに正直に答えた。 「採用されました。来週から、勤務します」 東城は眉間のしわをさらに深くし、顔をしかめた。 「お前、本気なのか?」と語気が荒くなる。「用心棒まがいの仕事していいって俺が言うと思ったのか?」 「用心棒じゃないです。セキュリティコンサルタントです」と広瀬は訂正した。 「セキュリティコンサルタントってカタカナで言えば、危険が減るわけないだろ」 「危険なことはありません。普通の民間企業が顧客の普通の民間企業ですから」 「お前のその危険なことはないって言葉ほど、実際からかけ離れた言葉はないよ。今まで俺が何回そのセリフを聞いたと思ってるんだ。そう言われて、ああそうか、危険がないんだな、じゃあいいよ、頑張って働いて来いよと俺が言うとでも思ってるのか」と東城は言った。 広瀬は口を横に結んだ。 この程度の反発は予想内だ。 それに、東城がいいよと言おうが言うまいが関係ないことだ。

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