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第18話
「本当は、危ない仕事につくって、わかってんだろ」と彼は言った。広瀬から返事がないので彼はしばらく考え、また口を開いた。「だいたい、お前、あの仕事はどうしたんだよ。橋詰さんに、また、紹介してもらった仕事。面接行くつもりって言ってたろ。仕事の中身は悪くないとか言ってたじゃないか」
「あれは」と広瀬は言葉を濁した。確かに、そんな仕事の話はいくつかある。
「別にいい。橋詰さんの紹介の仕事しなくたって、かまやしない。やりたくない仕事やれなんていわない。うちにいたらいいじゃないか。うちでゆっくりやりたいこと探せよ。そんなセキュリティ関係の危なっかしい、得体のしれない仕事なんかすんなよ」
「得体が知れなくはないです。高田さんの会社で」
最後まで広瀬の言葉を聞かず、「だめだ」と東城は言った。
「だめって」と広瀬が反論しようとすると、また、かぶせるようにして「だめなものはだめだ」と東城が言った。「昔の偉い人が言ってたろ。だめなものは、だめだ」
なんだそれ、聞いたことがない、と広瀬は思った。東城は適当に勢いに任せて話をしているだけなのだ。「誰ですか?」
「なにが?」
「そんなこと言った人です」
「えっと。誰だったかな。偉い人だよ。政治家か、起業家かなんか。今、すぐに名前が出てこない。んんん。これ、慣用句だろ。それに、だいたい、今、この話の本旨は、この名言じゃないんだ。高田さんの会社にお前が勤めることを話してるんだ」
「もう決めたので」
「断って来いよ。なんなら俺が高田さんに今、電話してやるよ。事情があって、御社に就職はできません、ってな」
「そんなことできるわけない」
広瀬の言葉を挑発と受け取ったのだろう。「できないと思うのか?やってやろうか?」東城はポケットから電話をとりだす。「俺、高田さんの連絡先、知ってるから」素早く指を動かしてロックを解除すると、本気でアドレス帳をたぐっている。
「やめてください。俺のことで高田さんに電話するなんて」
「じゃあ、お前が断れよ。そんな仕事するな」
頭ごなしに言われた。
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