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第19話

言い返してみる。 「職業選択の自由があると思うんですけど」 「はあ?」と東城は言った。「危ないことする自由なんてないんだ。なにが自由だってんだよ」 「憲法に書かれています。22条」 東城は大袈裟に目を見開いて驚いた顔をしてみせる。 「憲法とは、また、大きく出たな。憲法って言うのは、国家と国民の関係の大きな決め事だろ。日本国と国民は、殿様と家臣の関係とは違うから自分の仕事は好きに決めていいよって言うことだ。お前が仕事するとかしないとかっていうのは、この家の、うちの、家庭内の本当に小さな内々の相談事だろ」そう言いながらも彼もそれでは話が通らないと思ったのだろう。 「俺は、危ない仕事をするのはやめてくれないかって頼んでるだけだし」 とても頼んでいるという言葉でも口調でもなかった。 本人も自覚しているのだろう。急に依頼口調になる。 「なあ、頼むよ。お前がまた無鉄砲なことやらかすかと思うと、俺、心配しすぎて体調崩しそうだ。危ない仕事に転職なんて考えないでくれないか」 「無鉄砲なことはしません」と広瀬はきっぱり言った。「そもそも、高田さんの会社の仕事は全く危ないことはないんです」 「高田さんがそう言ったのか?危険なことはゼロ。皆無だって」 「高田さんは、仕事の内容は説明してくれましたけど、危険度がどれくらいかは何も言っていません」 ほうらみろ、と東城は言う。「危なくないなんて言うのは、お前の主観だ」

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