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第20話
堂々巡りだ。東城は納得していない。だめだ、だめだ、と言うばかりだ。
無言になった広瀬に東城は苛立っている。
そして、怒ったり、頼んだり、今考えつくあらゆる言葉を並べた。
それでも、全く反応を示さない広瀬に、とうとう「金が必要なのか?金ならやるよ。お前が必要なだけ」と東城は言い放った。そのまま、下手をすると、いくら欲しいんだ、と聞いてきそうな語気だった。
だが、すぐに彼ははっと気づき口を閉じた。自分が言ったことに動揺しているようだ。
「すまない。今のは言い過ぎた。悪かった」と東城は言った。
広瀬は答えず、じっと東城を見ていた。返事をする気にもなれない。金のことを言い出すとは、あんまりな物言いだ。
彼はというと後悔はしているようだが、はあっ、と大きくため息をついた。
そして、わざとらしく悲しそうな表情をしてみせる。
「どうしても、高田さんの会社に行くのか?」
広瀬はうなずいた。
「わかったよ。強情なお前を止められるわけないんだよな。で、いつから行くんだ?」
「来週の月曜日からです」
「それは、すぐだな」
東城は、キッチンにかかるカレンダーをみながら言う。
もう一度、大きくため息をついた。
「頼むから危ないことしないでくれよ。それと、スマホは毎日5回以上チェックして、俺に返信してくれ。じゃないと、心配で仕事が手につかなくなって、高田さんの会社に行っちゃいそうだ」
広瀬はそれには同意した。
当面は彼の希望通りにしよう。
無視してたら、東城のことだ、本当に、会社に来かねない。
心配でというよりも、言うことをきかない自分への嫌がらせのためにだ。
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