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第30話

だが、頭に浮かんだことは口には出さず、大きくうなずき話をせかした。「そうだよな。それで、白石久仁彦について、何かわかったのか?広瀬を雇った背景とか?」 宮田は、後部座席に手を伸ばし、置いていたビジネスバッグを引き寄せた。ファスナーを開けると、中から薄い青色のファイルを取り出す。 「これです」 警察で管理している人事ファイルだ。 「プリントアウトしたのか?」個人情報ファイルだ。勝手にプリントしたらまずいんじゃないだろうか。 「まさか、俺じゃないですよ」と用心深い宮田は首を横に振る。 「じゃあ、誰が?」 「佳代ちゃんが、どこからか入手してきました」 「ああ、そういうことか」と東城は安心した。 どこをどうしたのかは分からないが、佳代ちゃんなら、自分や周りが危険になるようなヘマはやらないだろう。 ファイルを開くと、白石久仁彦の写真と略歴がでてくる。 東京生まれの東京育ちだ。現在も東京で妻と子ども2人と分譲マンションで暮らしている。別に暮らしているが両親と兄弟も都内にいる。 警視庁では、交番勤務から所轄に配属され、生活安全、強行犯捜査、知能犯捜査など、都内の所轄を異動しながら、部署も変わっている。 検挙率も評価も可もなく不可もない。表彰もなく、問題も起こしたことがない。 全てが平均的だ。辞める時も、形式的には引き止めはあったが、それほど注目もされず、静かに退職していったとされている。 この平凡な経歴を見るだけでは、警視庁を辞めた後、会社を興して、売り上げを拡大し、分析力の高い自著を書くようなタイプには全く思えない。 第一、写真のあの自信満々な顔とこの略歴は一致しない。これはもっと大人しい地味な人間の記録だ。ファイルの写真を見てみると、同一人物ではあるが雰囲気は明らかに違う。

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