31 / 130
第31話
「他のファイルは、白石が自分の会社に引っ張った人間のものです」と宮田は言った。
何枚かの書類に目を通る。どれも成績抜群の有能な若手の人材だ。
将来を期待されていたところをあっさり白石の会社に転職している。
白石の直接の部下と彼らの同期だ。白石に誘われて入ったのだろう。
数名の若手の情報に交じって高田の資料もある。
高田は、白石よりもはるかに優秀な成績だ。
資料を読んでいる東城を無言でじっと見ていた宮田は、東城が顔をあげると、彼の疑念に同意を示し深くうなずいた。
「白石は記録上は平均的で平凡な人間だな。異常なほどだ」
「そうです。白石久仁彦には、なにかあります」と宮田は強くうなずいた。「その記録が操作されているのかもしれません。辞めて、有能な人材ひっぱっていったから、今後、引っ張られないように有能な過去を改ざんされたのかも」
「あるいは、本人が在職中に能力を調整していたか。あえて、平均的な人間を装っていたとすると、不気味だな。何のためにだ。想像できない」
「だから、俺は、今日、変装してきたんですよ」と宮田は言った。「白石は、組織の関係者かもしれないし、組織に睨まれているのかもしれません。安全対策せずに、関わり合いになるのは危ない」
東城は、うなずいたが、宮田がやたらと警戒している『組織』とは何を指しているんだろう、とも思った。彼自身が勤める警察組織なのか、他の陰謀組織なのか。
宮田は想像を膨らませるだけ膨らまして暗い目になっている。
「この資料は、もらっていいのか?」
「もちろんです」と宮田は言った。「広瀬には白石のこと伝えるんですか?」
「ああ。気をつけろとは言ってるんだ。こういう情報をみたら、本人はもっと気を付けるだろう」
「だったらいいんですけどね。広瀬の気を付けるって、意味をなさない」と宮田が言った。
「佳代ちゃんも、この後、もっと調べてみるって言ってたんです。俺は、危ないからって止めたんですけど、聞く耳持たなそうです」
「佳代ちゃんは広瀬と違って大丈夫だろ」と東城は答えた。
「そうですけど。万が一ってことがあるんじゃないかって心配になるんですよ」と宮田は言った。
万が一なんてことが佳代ちゃんにおこったら、お前が颯爽と駆け付けて助ければいいんじゃないのか。
佳代ちゃんの中のお前の株も上がるだろ、と言おうか思ったが、そんなシチュエーション、万が一どころか、全くありえなさそうだった。
ともだちにシェアしよう!