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第32話

宮田と別れ、書類を持ったまま東城は警察庁の近くのホテルに向かった。 昨夜、東城のもとに警察庁の橋詰から電話がかかってきたのだ。 また、広瀬宛の電話かと思ったら、今度は自分あてだったのだ。 「彰也の新しい仕事の件で、話が聞きたい」と言われたのだ。 そして電話口で、どんな職場か、なぜそこに就職するのかを問われた。 通常なら、本人からお聞きになった方がよろしいのではないでしょうか、と答えるところだが、今回は東城も思うところがあり、橋詰の質問にわかる範囲で答えることにしたのだ。 そして、午後に橋詰のところに訪問する約束をした。 橋詰は、老舗ホテルのバーの個室で、豪華な装飾のソファーセットの奥に座っていた。 冷ややかな表情で、現れた東城に座るよう言った。 橋詰の前には紅茶のポットが置かれ、既に赤味の強い紅茶がカップに注がれていた。 しばらくすると個室のドアがノックされ、コーヒーが運ばれてきた。 特に東城の希望を聞くことなく橋詰が注文したようだ。コーヒーが東城の前に置かれた。 だが、橋詰が飲むのをすすめることもしなかったので、東城は口をつけなかった。 「彰也は、わたしが紹介した仕事は断ってきた」と橋詰は言った。「いきなりだったから驚いたよ。さらに、もう就職先が決まっているというから、本人に質問したんだが、たいして説明はなかった。君は、詳しく知っているんだろうね」 東城は、広瀬が高田の紹介で面接や説明を経て入社したこと、白石久仁彦という社長と彼が社員に勧誘した有能な元警察官たちのこと、白石久仁彦の会社は今のところ経営状態は良好で顧客も多いこと、といった自分が知る限りの全てを明かした。 橋詰は、静かに東城の話を聞いていた。しばらくして、白石久仁彦のことは聞いたことがない、と言った。 警察庁の上層部にいる橋詰にとっては、警視庁の所轄の刑事とその周辺の出来事は耳に入ることがない些細なことなのだ。 「その会社と白石のことは、調べておこう」と橋詰は言った。「君は、彰也が、その会社でどんな業務に携わっているのか把握しておきなさい。妙なことに巻き込まれないようにしなければ」 言われなくてもそうするつもりですよ、と東城は内心思った。 自分が一番そう思っているのだから、こんな忠告なんて不要だ。

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