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第33話

橋詰は、紅茶に口をつけ、なにやら思案していた。そして、口を開いた。 「白石のこととは別に、彰也や君の周囲で、困った動きがある」 淡々とした橋詰の口調がわずかに緊張を帯びていた。 「警察の上層部の中で、君に接触しようとしている人間がいる」 「それは、どういうことでしょうか?」 「詳しくはわたしもわからない。だが、君を警視庁に戻すようにと暗に依頼されている」 東城を経産省に出向させる手配をしたのは橋詰だから、彼の耳に入ったのだろう。 もしかすると、橋詰は、広瀬の再就職の話ではなく、この話をするために自分を呼んだのか、と東城は思った。考えてみれば、広瀬の職場のことは東城に聞かなくても橋詰がその気になればわかることが。 橋詰は続けた。「近いうちにそのような話が来るだろう」 自分は、警視庁に戻されるのだろうか。 「慎重にふるまいなさい」と橋詰は言った。 そこで橋詰は腕時計を見て、立ち上がった。今日の話はこれで終わりだ、という感じだった。詳しい説明も何もないままだ。 東城もあわてて立ち上がった。 「また、連絡をする」と橋詰は言い、東城を残してその場を立ち去った。 東城は、個室のドアが閉まるのを見届け、再びソファーに腰かけた。やっとコーヒーを飲める。そう思ったが口にしたコーヒーはぬるくなっていた。 慎重にふるまえ、とはどういうことなんだ、と東城は思った。橋詰が具体的に話さないのにはどんな理由があるんだ。 少ない情報と味気ないコーヒーに苛立ちながら、東城は、ポケットからスマートフォンをとりだした。 広瀬には一日5回は連絡をしろと言っておいたのに、やっぱり、何一つ入っていない。午前中に送ったショートメッセージは既読にもなっていなかった。 広瀬は相変わらずの標準仕様だな、と東城は思い、さらにメッセージを追加した。

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