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第39話
それからしばらく肉がとろける美味しいビーフシチューを食べ、赤ワインをあけながら、東城ととりとめのない会話をした。
食事を終えたら東城が紅茶をいれてくれた。
今日はお前の初仕事だからな、疲れただろ、と至れり尽くせりだった。
広瀬の仕事に反対していた気持ちは、先ほどの黒い車の緊迫感でどこかに飛んで行ってしまったのかもしれない。そのうち蘇ってきて、やっぱりお前が危ない仕事をするのは云々と言ってくるかもしれないけど。今日は大丈夫そうだ。
紅茶のカップを手に、広瀬が聞いた。「さっきの車のナンバーの確認はどうしますか?」
「うーん、どうしたものかな」と東城は答えた。「持ち主がわかれば話は早いんだが。俺が、本庁勤務だったら簡単に調べられたよな」最後の言葉は自分に向かって呟いている。
広瀬はしばらく考えて「忍沼さんに依頼してみましょうか?」と提案してみた。彼なら探ってくれそうだ。
「忍沼か」と東城は言った。当然ながら嫌そうな表情だ。
「もし、警備会社の監視カメラにあの車が写っていたらその映像も渡すと人物の解析もしてくれると思います」
「確かに、やつにはお手の物だろうな」東城はうなずいた。「お前から頼んでみてくれ。忍沼はお前の味方ということだけは嘘がない。お前を裏切るようなことは絶対しないだろう。だが、忍沼自身にも慎重にしろと伝えておかないとだめだ。あの車の人間がどんな相手かまだわからない。忍沼を危険なことにはできるだけ巻き込みたくはない」
広瀬は同意した。彼を危険な目に合わせたくないのは広瀬も同じだ。
「それと」と東城は続けて言った。「忍沼には経費は払うとはっきり伝えてくれ。タダでなにかしてもらうのは、いくらお前と親しく思ってるとしても、よくないからな」
忍沼は受け取るだろうか。東城が払うと言ったら、絶対に請求してこないか、逆にふっかけてくるか、どっちだろう。
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