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第41話

翌日から、広瀬は落とし物を探して長い距離を移動した。 関連しそうな駅や警察署、落とし物センターに電話をかけ、実際に出向き、写真を見せたりした。 なにしろ警視庁管轄だけで年間400万件以上の落とし物が届けられている。内容は書類や衣類など様々だ。落とし物は日常の生活の中にあるのだ。 広瀬は、拾った人が警察に届けてくれるのは美風だと常々思っていた。落とし物をしたら警察に探しに来るというのも市民の警察への信頼のあかしだ。 だからって落とし物が多くていいわけではない。そもそも、なんだって、カバンのような大きなモノを、大勢の人が落としたり忘れたりするんだ、とも思う。 この数がもっと少なければ、今回のビジネスバックを探すのも簡単だったろうに。歩き回りながらそう思った。 一方で、仕事で外を動き回っていると疲労はするが、それは気持ちのいい疲れだとも思う。久しぶりに長時間歩いた足の痛みも、知らない人と言葉を選んで話すことも、なんだか楽しい。 夕暮れの時間、広瀬は、予定表をみた。もう、会社に言われた帰社時間に間に合うギリギリだった。だが、あと、もう一か所だけ行ってみることにした。 落とし物係の係員は初老の男性だった。制服をきて、広瀬の差し出すビジネスバックの写真を興味なさそうに一瞥する。 「ありませんね」と男は何も確認せず言った。そして、食い下がろうとする広瀬を手で制した。「あんたがた、なんか、ゲームでもしてんの?仕事の邪魔すると、警察呼ぶよ」苛立ちを隠さない言葉だった。「これ、もしかしてこっそり撮影でもしてんの?ほら、最近はやりの、動画、何たらチューバー。お騒がせ動画とかとって、やってんだろ」 相手が何を怒っているのか、さっぱりわからない。 「どういうことでしょうか?」広瀬は申し訳ないが教えてください、と頭を下げた。 「仲間なんだろ?」 「仲間、ではないです」仲間とは何のことだ。知らない仲間の一員にされるわけにはいかない。 「ふーん」と男は言った。ジロリと広瀬を見る。「あんた、タレントかなんかじゃないの?テレビでは見ないけど、動画作って、子ども相手にやってる」 一体何のことを言っているのだろうか。ますますわからない。

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