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第43話
夕方には戻る様にと指示されていたので、広瀬は事務所に戻った。
オフィスには先輩社員の飯星が広瀬を待っていた。
「お疲れ様」と飯星は広瀬に言った。
それから、一日中外で暑かっただろう、冷たいもの飲みながら話そうと言い、良く冷えたペットボトルの麦茶を出してくれた。
広瀬の今日一日の報告に耳を傾け、飯星はうなずく。
「他にもバッグを探している男がいるのか。今回の件、怪しさがつのるな。だけど、まだ、どう評価分析したらいいかはわからないな」と彼は言った。「報告書に、今、広瀬くんが言った話を書いておいて。今日一日の探索状況も全部」そう言うと簡単な報告書の書式を教えてもらった。
説明をうけている最中に、嶋が自分のデスクから来て言った。
「白石社長から指示があって、あの男の会社について再度確認した。うちの会社では契約前に企業確認はしているんだが、ほとんどの会社がすでに契約している会社の紹介だから、社内の担当者からの聞き取りや信用調査会社のデータベース確認程度しかしない。だが、今回のような通常とは違う依頼がきたら、詳細を調べることにしている」
嶋はノートPCを机の上に置き、ファイルを開く。
「年会費は全額支払われているし、今までの業務では特に変わったことはない」
依頼主の会社概要や資料が表示されている。IT関連のシステム開発会社で中堅企業だった。
売上は受託案件がほとんどだ。政府系の仕事も多く行っている関係で、このタイセクトーン社にコンサルを依頼してきたらしい。
「怪しいところはなさそうだな」と飯星は言った。「依頼に来たあの男は?」
「名刺通りの役職だ」と嶋は答える。「今日、会社に電話したら外出していた。実在はしている。だが、出張中で当分戻らないらしい」
「バッグを自分でも探しまわってるのかな」と飯星は言った。
「そうかもしれないな」と嶋は答える。「だけど、電話に出た女性の話しぶりだと、ここのところずっと出社していなさそうだった。連絡もなく不在で困ってるって口調だった」
飯星と嶋は顔を見合わせている。
昨日の不躾な客の怪しさが増す。
「会社のことも男のことも調査は続ける」と嶋は言った。
飯星は向き直って広瀬に言った。「広瀬くん、今日は暑い中ご苦労様。疲れただろうからもう帰っていいよ。明日もよろしく頼むね」
飯星も嶋もまだ仕事があるようだった。広瀬は手伝いたかったが、二日目の社員なんだから、早く帰って、と強く言われ、辞去することにした。
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