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第44話
オフィスの外にでると、広瀬はスマホを内ポケットから取り出した。
東城に今終わったことを連絡する。
今日も日中は連絡するのを忘れていたけど、仕事が終わったら思い出したのだ。この終業時連絡は自分の行動に定着できるのだろうか。自信はあまりない。
東城だって心のどこかでは、広瀬からきちんと連絡があるなんて思ってないのではないだろうか。
そこまで考えて、どうだろう、と思い直した。
そうでもないかも。ずっと本気で連絡待ってそうだ。
広瀬には東城の考えていることは、よくわからない。
スマホには、忍沼から連絡が入っていた。待ち合わせ場所を指定されている。オフィスの近くにある店だった。
東城に再度メールし、忍沼に会うことを連絡しておく。彼から返信はすぐには来なかった。仕事が忙しいのだろう。
それから、スマホの地図アプリを頼りに、小さな路地裏をいくつも抜けた先にあったのは、古びたビルの半地下のバーだった。
店は外見よりは広い作りだった。カウンターや席にはちらほらと客がおり、店内には有名なマフィア映画の主題曲がかかっていた。
忍沼はバーの奥のボックス席で広瀬を待っていた。広瀬が店に入ってきたのに気づくと、笑顔をみせ、軽く手をあげて招いた。
彼の向かいには元村融が座っていた。
彼は、広瀬を見ると席を立ち、向かい側の席を開けるために忍沼の隣に座り直した。手前に引き寄せたグラスにはビールが半分入っている。
忍沼の飲み物はいつも通りグラスの中の白い液体。牛乳だろう。
広瀬は二人に頭を軽く下げて挨拶をした。
「あきちゃんはバーボンでいいよね?水割り?」と忍沼は言い、広瀬の返事はほとんど待たずにバーの店員にメニューの文字を示した。
「何か食べる?」と忍沼は聞いてくれる。「軽食くらいしかないけど」
腹は減っていた。だが、首を横に振った。中途半端に食べるとかえって空腹が増しそうだ。
「大丈夫?」と忍沼は気づかったが、それ以上は進めてはこなかった。
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