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第45話

「あきちゃん、ずいぶん元気になったね」と忍沼はうれしそうな口調で言った。「今朝は、相談してくれてありがとう。ナンバー、早速調べたよ」と忍沼は言った。 忍沼には今朝、車のナンバーは伝えていたのだ。 「もったいつけてもしょうがないから手短に言うけど、警察庁の関係団体の所有だったよ」 彼は声をひそめて言いながらポケットからスマートフォンをとりだす。 そこで店員が広瀬のバーボンを持ってきたので、画面を下に伏せた。 店員が立ち去ると、忍沼は画面を見せてくれた。 ホームページに環境安全開発ソリューション協議会と名前が黒い文字で書いてあった。 忍沼が操作すると、沿革と住所、設立目的など少ない情報量の文字が表示された。 「車両の登録からすると、この団体の所有の車だった」と忍沼は言った。「国の関連団体が、ずいぶんと高い外車もってるんだって感心したよ」 広瀬は何度もそのページを読み返した。そして、目をあげた。 穏やかな顔の忍沼の隣で、元村融は険しい顔をしている。 「警察庁の関連団体の車が、なんでお前の家に脅しに来るんだ?」 広瀬が回答に窮していると、忍沼が横から言った。「そんなこと、あきちゃんにわかるわけないじゃないか。分からないから、僕に助けを求めに来たんだ」 「心当たりくらいあるだろ、警官なんだから」 「もう、辞めちゃったんだから警官とは違うよ」と忍沼が言う。「本当に、あきちゃん、辞めてよかったよ、警察なんて、百害あって一利なしだからね。ちょっとした信号無視程度のことでも、すぐに犯罪者扱いだ」 「それは、言いすぎだろ」と元村はまともなことを言った。「だいたい、お前のネットワークへの不正侵入は信号無視よりはるかに悪質だ」 「僕のは、全然悪質じゃないよ。だいたい、侵入しても誰も気づかないんだから。誰のこともおびやかさない。平和そのものだ」と忍沼は答えた。本気でそう思っているようだ。 広瀬は、話を聞いた後、今日は急ぐので、と忍沼に別れを告げ、すぐに店を出た。 忍沼は帰り際に、気を付けて、と広瀬に言った。 「警備会社の監視カメラ映像がきたら、僕に送って。うまくこの車が映ってたら、車の中に乗っている人間を特定できると思う。何者であれ、あきちゃんを脅かしに来るなんて許せない」と彼は言った。いつでもいいから、変なことが起こったら、必ず、連絡して欲しい、とも言われた。

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