46 / 130

第46話

広瀬は足早に家に帰った。帰りの電車の中でも、家へ向かう道でも、先ほど忍沼が見せてくれた団体名で頭がいっぱいだった。 スマホを見ると、東城から帰りの時間を告げる連絡が入っていた。今日は遅いようだ。 家につくと、広瀬は、階段を駆け上がり、自分の部屋のデスクに置いたノートPCを立ち上げた。 中には、乏しい交流関係の中で送っている年賀状の住所録が入っている。 自宅の住所とともに、メモ程度に勤め先や冠婚葬祭関係の事柄を記録しているのだ。 忍沼が見せてくれた団体には見覚えがあった。 広瀬が警察庁のオジサンたちと呼んでいる、亡父の友人の一人、大垣さんだ。 オジサンたちは警察庁のキャリア官僚だったが、既に警察庁から外部の団体や民間企業、大学などに職場を変えている人も多くいる。 今でも警察庁にいる橋詰はかなりの上の地位にいるが、いずれは同じように外にでるだろう。 そして、住所録には確かに大垣の記録があった。勤め先があの団体環境安全開発ソリューション協議会だった。 うっすらと、数年前に理事になったと言っていた時のことを思い出した。 オジサンたちは定期的に会合をもち、広瀬を交えて色々な話をしていた。 大垣の新しい職場についても、話題にしていた。どんな仕事なんだ?と聞かれて、大垣は何と答えていたろうか。思い出せない。 大垣は、オジサンたちの中で、どちらかというと静かであまり話をしない人だ。 だいたい、父とはどんな関係でオジサンの一人に加わったのだったろうか。 同期ではなさそうだ。 橋詰のように大学時代からの友人か、同僚か、どんな縁なのか。 最初に会った時に話をされたのかもしれないが、当時は東京にでてきて大学生になりたてで、オジサンたちと会うのにすごく緊張していたのだ。なにも覚えてはいない。 あの黒い車に乗っていたのは大垣だったのだろうか。だとするとなんであんな脅かすような行動をしたのだろうか。 何の意図があって。 考えてもわからない。 広瀬は、スマホを取り上げた。橋詰に大垣のことを聞こうかと電話番号を出す。だが、しばらく画面を見ていたが、かけるのはやめた。 東城が帰ってくるのを待とう。

ともだちにシェアしよう!