50 / 130

第50話

東城は段ボール箱をもったままリビングに行った。ポケットからボールペンを取り出すと、段ボールの蓋のガムテープを突き刺し、手前に引いて切り開いた。 中からはビニールの緩衝材と梱包された箱がでてくる。 広瀬は、東城が中身を取り出す手元をじっと見ていた。 出てきたのは、不思議な模様のついた深い緑色の石の置物だった。 それと、同じ石で小さい丸い球が複数個ころがる。 さらに、銀色の鎖の先に同じ石の楕円形のペンダントトップもあった。それは、人差し指の先くらいの大きさで模様も色も置物よりも複雑で美しい。 東城は、まず、置物を手に取ると、キッチンの近くにある広瀬のために作られたバーカウンターの脇に設置した。色々と角度を変えて、自分から見て丁度いい置き場所を決めている。 そして、ようやく広瀬に説明した。 「これは、孔雀石」と言う。「仙台の叔母がパワーストーンに詳しいって話は前にしただろ。丁度いい石があったら欲しいって頼んでたんだ」 「そうですか」と広瀬は返事をした。 「孔雀石の効果は、魔よけ、ストーカーよけ。お前にぴったりだろ」 「魔よけがですか?」 「そうだよ」と東城はなぜそんな風に広瀬が聞き返すのかわからない、という顔をしている。彼は、美しいペンダントトップを持ち上げる。 「古代エジプトの頃から、災いを遠ざける力があるんだ。クレオパトラも使ってたらしい。これで変な奴がお前に付きまとうこともなくなる。それに、この色はお前の肌に合うだろ」 彼はそう言いながら、広瀬に近づき、首の後ろに手を回すと鎖をとめた。緑のペンダントトップは、鎖骨の下あたりの位置になった。 この孔雀石の置物は、リビングや家の中そこここに散らばるパワーストーンや類似の置物、風水や占星術の縁起ものの一環だ。だけど、自分が身に着けることになるとは思わなかった。 広瀬は指で孔雀石をなでてみる。つるりとした手触りだ。少しひんやりしている。 東城の気持ちを否定する気はないけど、アクセサリーをつける習慣は全くないので、違和感がある。 おまけにクレオパトラってシーザーとかアントニーとか愛人がいたけど、戦争に負けて最後は自殺したんじゃなかったか。なんとなく縁起が悪い気もする。 そんな広瀬の内心を知らず、彼は、身体をかがめ、孔雀石に触れる自分の手にキスをした。 目を上げると、自分をじっと見ながら「綺麗だな。よく似合うよ」と言った。 彼の欲望を隠さない瞳の方が、綺麗だと広瀬は思った。

ともだちにシェアしよう!