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第52話

彼が、覆いかぶさってきて、唇にキスをしてきた。最初は柔らかく下唇を食んで、その後、舌を入れてきた。ゆっくりと時間をかけて口の中をかき回していく。 舌や口腔内を丁寧に愛撫されていく。 「ん」と思わず声がでて、広瀬は東城の首に手を回した。 力を入れて抱きしめると、彼の手が、自分の肌を撫で上げた。 「そういえば、今日は、仕事はどうだった?」 指が身体の形をなぞっていく。広瀬の意識は自分の身体を這う指にむかっている。だけど、東城は、落ち着いた声で質問をしてくるのだ。 「え?ああ」と広瀬は言った。 「落とし物は、見つかったのか?」 「んん」広瀬は首を振った。「まだ、です」 「明日も探すのか?」 手の平がそこここを意地悪く動いていく。 ゆっくりともどかしく触れたり触れなかったりを繰り返してくる。 広瀬は無意識に腰を揺すった。 彼の手や足に自分を擦りつけてしまいそうだ。まるで発情した動物みたいだ。 「明日は?」と東城が耳元でもう一度聞いてくる。「探しに行くのか?」 広瀬はうなずいた。 「気を付けろよ」と東城はささやく。「何かわかっても、すぐに行動するんじゃないぞ」 彼は広瀬に話し続けながら、時々耳朶を噛み、手や指で広瀬を翻弄するのをやめなかった。 広瀬が自分の口で彼の口をふさぎ、長いキスをするまで、ずっと。 新しい会社のことや社長のことまでもなんだかんだ言っていたような気がする。 でも、その内容が広瀬の頭の中まで届くことはほとんどなかった。

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