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第58話
「やめろよ!」と大声をあげてくる。
こっちが悪いことをしているみたいだ。
「何か用が?」と広瀬は質問した。
「用なんてない!急になんだよ!」
「駅から、後をつけてきたのでは?」
「つけてなんていない。痛い!放せ!どけ!」
男は大声でわめいている。
通りがかりの人が数人、速度をゆるめてこちらを見ている。
なにが起こっているのか知りたがっているのだ。
警察に通報する必要があるのか、関わり合いになるべきではないことではないか、と推し量っているのだ。
広瀬は、これ以上大声を出さないよう、ゆっくりと腕から手を離した。
男は、広瀬をにらみつけ、また倒されないよう警戒しながら半身を起こす。痛そうにねじられた方の腕をなでている。
着ているものはしわくしゃの半袖シャツに埃だらけのチノパンだ。
汚れているのは今地面に倒されたからだけじゃない。無精ひげがはえ、髪もここ数日櫛をいれていなさそうにボサボサだ。
じっと外見を観察していると、「そのカバン、返せよ」と言い、手に持っているビジネスバッグを指さされた。「お前のカバンじゃないだろ。横取りする気か」
男は、険しい表情だった。だが、かすかに目には怯えた色がある。
「お前、どの組織の人間なんだ?そのカバンを探しまわってただろ?」と男は言った。「昨日と今日、あちこち聞きまわってた。話を聞いたぞ。そのカバン探してる男がいるって。俺の方が先に見つけるはずだったんだ」
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