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第62話
「兄貴、というのはあなたの本当の兄弟ですか?それとも、先輩のようなもの?」
「本当の兄弟じゃあない。だけど、子どものころから一緒で、面倒みてもらってるんだ。兄貴を見捨てるわけにはいかない」
「その、兄貴の名前は?」
井上はまたしばらく黙って、それから言った。「井上」
「同じ?」
「そうだ。だから、仲良くなったんだ。おんなじ苗字だから、親戚かもしれないなって、兄貴が言って」と井上はぼそぼそ言った。
「井上、下の名前は?」
「兄貴は、きみお。俺はまさはる」と井上は答えた。
「組織というのは、いわゆる暴力団と理解していいんですか?」
井上まさはるはまた回答を渋る。
「兄貴はヤクザじゃない」
「でも、暴力団の仕事をしている?」
「その辺の会社員ってわけじゃないからな。頼まれればなんでもやる」
「組織は、暴力団?」
「あんたは、警察なのか?」疑いの口調だ。
警察に敵意があるのだろうか。
「警察ではありません。民間企業に勤めてます」と広瀬は答えた。
「ヤクザも民間企業だぜ」
「そうですか」確かに、言われてみれば公的機関ではない。
だけど、企業でもないだろう。
反社会的勢力だ。改めて考えると『勢力』というのは、不思議な名称ではある。他に勢力と呼ばれるのは海外の武装勢力くらいだ。と、どうでもいいことが頭の中をよぎった。
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