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第64話

「かかってきたらカバンは、取り戻せたと言ってください。証拠に、このカバンの写真を送るといい」と広瀬は言った。「届け先を聞いて、井上きみおさんの解放を確認出来たら、渡すと言ってください。それから、その会社の名前を確認してください」 「あんた、カバン、返してくれるのか?」井上は少しだけ明るい顔になる。 「まずは、人命重視ですから」と広瀬は言った。「ただし、渡す前に、中身を確かめます」 「え?だけど、どうやって?鍵かかってんだろ」 広瀬は、井上が自分に向けたダガーナイフをポケットから取り出した。 そして、男が制止する間もなく、カバンの縁にナイフを差し込み、切れ目を入れた。 「おい!なんで、そんな!」 井上が大声を出すのを、広瀬は手で制した。すきまから中を覗き込んでみる。 「静かに。騒がないように。他のお客さんがこちらをみます」 「だって、お前、なんてことすんだよ」 中を覗いて見る限り、中には何も入っていない。暗くてわからないので、仕方なくもう少し切れ目を入れ、手を入れて中をかき回した。 「どうする気だよ、そんなことして」 井上の声は、また、絶望感に包まれている。 無視して探ると、カバンの底の方に、紙が入っていた。 広瀬はそれを引っ張り出す。白い細長い封筒だ。ロゴは特についていない。揺すると中に何か入っている。 封がしてあるが、それは、ナイフで丁寧に開いた。 逆さにして振ると、中から黒いUSBメモリがでてきた。

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