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第65話

「どうするつもりだよ」と井上はもう一度言った。泣きそうな声だ。 「見つけた時には、既にカバンは壊れていたことにしましょう」と広瀬は答えた。 「封筒も開けてるじゃないか!第一、そんなこと、信じてもらえるわけないだろ」 「そうですか」 広瀬はUSBメモリを見る。 中身を確認するには、PCが必要だ。今手元にはない。封筒の中を覗き込むと小さなメモ用紙も入っている。名前と住所が書いてあった。広瀬はそれを自分のスマホで写真に撮る。 そんなことをしていると、井上のスマホが鳴った。着信番号は非表示だ。 彼は、怯えながらその画面を見ている。広瀬は出るようにうながした。 30分以内に、カバンを持って来い、と言われた場所は、繁華街のはずれの廃ビルだった。 権利関係がこじれ、取り壊しも売却もできない。入り口の関係者以外立ち入り禁止張り紙は破れ、入り口にはゴミが散乱している。 兄貴、の解放が先だ、と井上は電話口で必死に言った。 相手は、廃ビルにカバンを持ってきたら、その場で、井上きみおを解放する、とあっさり同意した。 必ず兄貴を連れてこいよ、と井上は電話口で念押しした。

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