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第66話
井上は、相手の会社名を聴くことができなかった。
何度か聞こうとしたのだが、相手は答えなかったのだ。
相手の会社は、あの、感じの悪い依頼主の所属する会社だろうか、それとも無関係な別の会社だろうか、つきとめたかったが、確認はできなかった。
なにかできる時間はあまりない。
広瀬は、井上と一緒にその廃ビルに入った。
カバンは自分の手から離さなかった。
井上にも、誰にも渡すつもりはない。
依頼主に渡すことが広瀬の仕事だからだ。
井上きみおを見殺しにはできないので、彼を捕えている人間に見せるために持ってきたのだ。
それにしても、こんな絵にかいたような廃ビルに呼び出すとは。
相手は何者だろうか。堅気ではない。会社も暴力団かそれに類するものなのだろう。
井上は顔を引きつらせ、中に入っていく。
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