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第68話
広瀬は、手に持った黒いビジネスバッグを胸の高さまで持ち上げ、男たちに示す。
「これを見つけたので持ってきました」
「誰だ、お前?」男の一人が不審そうに尋ねてくる。
「井上さんの友人です」と広瀬は答えた。
「友人?」と男は言う。「なんで、友人なんて出てくんだよ」
後ろ手に縛られているきみおも怪訝そうな顔でこちらを見上げている。
「この通り、カバンは持ってきました。きみおさんを解放してください」と広瀬は言った。
「約束だろ」と井上が怒鳴るように言った。焦っているし、この場をさっさと立ち去りたいのだろう。
二人の男はしばらく小声で相談していたが、うなずいた。
「まあ、いいだろう。ほら、立って、向こうに行けよ」
きみおの背中を足で軽く蹴り、急き立てた。一人の目はじっと広瀬の持つカバンを見ている。
彼らにとっての最優先はもちろんこの黒いカバンだ。
きみおは、怯えた様子だ。両腕を背中で縛られたまま、ちらちらと後ろを警戒して振り返りながらも、こちらに歩いてくる。
足はふらついている。
井上は、足を踏み出し、きみおに近づいた。きみおの手は背中でがっちりと結束バンドで止められている。
「さて、カバンを返してもらおうか」と男の一人は言った。
「わかりました」広瀬はそう答えた。
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