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第69話
ここに来るまでに井上には何度も説明した。
きみおが解放されたら、すぐに連れて逃げること。
安全な場所にたどり着くまで決して立ち止まらないように。
カバンは自分が持っている。
自分も相手のスキをついて逃げる。
連絡するから合流し、今度は組織にカバンを渡す。そうすれば、井上も兄貴も安全だ。
井上は、計画らしい計画でもない広瀬の話に、さんざん渋っていたが、他に手もなく、同意した。
広瀬は、カバンを見せながら相手に近づく。
背後で、井上はきみおの腕をとり、外にむかって走り出した。
二人の男は井上たちが逃げたことにはお構いなしだった。
広瀬に比べ体格で優っている自分たちとでは、このまま逃がしたり、負けたりするわけがないと思っているのだろう。
「カバンは、床に置け」と一人が言った。「それから後ろに下がれ」
広瀬は、言われるままにカバンを置き、数歩離れる。
「そこにいろよ。確認するからな」と言いながら、一人が広瀬を警戒しながらカバンに近付く。
それから腰をかがめて拾い上げようとした。
その間を逃さなかった。
広瀬は思い切り足の内側の側面で男の顎を蹴り上げた。
東城とさんざん練習した動きの一つだ。
相手が頭を揺らし後ろに倒れる。
広瀬はカバンを拾い上げ、走って逃げた。
後ろから怒鳴り声が聞こえるがかまわない。
階段のところで、追いついてきた男が飛び掛かってくる気配から、脇に動いて避ける。
相手は一瞬よろめいたが手が伸びてくる。
それも避けようとして、そのまま足がもつれてしまい、身体ごと階段を落ちた。
カバンは抱きしめたままだ。
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