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第70話
男も、階段を落ちてくる。
怒りのうなり声をあげながら、階段の途中で胸倉をつかまれた。
こぶしが振り下ろされ。殴られそうになるのを抱えたカバンで除ける。
身体をひねって足で男のすねを蹴った。
組み合うとさすがに大きな相手の方が強い。
バタバタ手足を動かすが、抑えつけられる。
また、上から殴られそうになり、腕で防いだ。
こぶしが鈍い音をたててあたる。腕に強烈な痛みが走った。
「この野郎」と男はわめいた。「バカにしやがって。ぶっ殺してやる」
「おい!」階段の上から声がした。「まずはカバンだ」
広瀬がさっき顎を蹴った男が階段を降りてくる。
鼻からなのか口からなのかわからないが、顔が血で真っ赤だ。白いワイシャツにもポタポタと垂れている。
「抑えてろ」と血をぬぐいもせず男が言い、広瀬の持っているカバンを無理やり奪い取った。
「お前、何者だ?素人じゃないな。どこのもんだ?」と抑えつけてくる男は広瀬の顔を覗き込んで言う。
そういうこの男も素人ではないのだろう。この場合の玄人が何を指すのかは分からないが。
男は広瀬を完全に制圧したと思っているのだろう。余裕ある声で言う。
「なんで、井上たちを助けたんだ?どういう関係だ?」
男の息がかかってくる。首に力をかけられ苦しい。
「お前は、どこの誰なんだ?」そう言ってくる。
「おい」と血まみれのもう一人がその話を遮ってきた。「このカバン、穴が開いてるぞ」
男は広瀬がナイフであけた部分を手で広げる。
「どういうことだ?」
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