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第71話
抑えつけている男が広瀬に詰め寄る。
「なんだ、あの穴は?なんだってカバンに穴があいてるんだ?」
首を絞められ苦しくて、「知りません」と広瀬は答えた。「最初からあいてました」
「最初から?」
「見つけた時からです」
カバンを持つ男が焦りながらも穴に手を入れている。
そして、中から白い封筒を取り出した。
「あったぞ」と男はその封筒をもう一人に示しながら言った。
封筒は、コンビニで買った糊できちんと封をし直している。
よほどじろじろと見ないと一度開けたことには気づかないはずだ。
血まみれの男は封筒を振って中の物を確かめている。
広瀬を抑え込んでいる男も、封筒を持つ手に顔を向けた。
その隙も広瀬は逃さなかった。
身体をねじり、自分で階段の下に転がりながらポケットに手を入れて、井上から取り上げたダガーナイフを取り出した。
鋭い切っ先を向けると相手の男はひるんだ。
広瀬はナイフで男と狙いながら立ち上がる。数歩、階段を降りた。
抑えつけていた男はこちらに飛び掛かろうと、間合いを取っている。
広瀬はナイフを構えたままだ。だが、この短い薄いナイフで致命傷を負わせずに相手を制するのは難しい。
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