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第73話

怒る血だらけの男にもう一人が話しかける。 「すました顔っちゃそうだな。こいつ、よく見るとずいぶんときれいな顔してる」男の雰囲気がじわりと変化した。視線に、粘つくような淫猥な感情が混じる。「こういう整った奴を見ると、俺は、ボロボロにしたくなる」 「また、お前の趣味の話かよ」と血だらけの男は苦笑した。「だけど、今回は、いいと思うぜ。こいつ、なめたまねしやがって」 頬が緩み、下卑た表情になる。「跪かせて、哀願させてやろうか」 広瀬はナイフを突き出した。だが、避けもせず男はこちらに踏み込んでくる。両手がさらに伸ばされた。 広瀬は身体を沈め男のわき腹に入った。 「おっと」今度は、男はすばやく広瀬の動きから身体を避ける。 もう一人の血まみれの男が広瀬の横に回り、ナイフを持つ腕をとると、ねじあげた。 筋が引き攣れ力を失ってナイフは階段に落ちる。 「顔は殴るなよ」という言葉が耳に入る。「口ん中が腫れて開かなくなると楽しみが減るからな」 ひざを腹に入れられそうになったが、それは身体をねじり避けられた。だが、すぐに後ろから羽交い絞めにされる。手足をつっぱって逃げようと動かした。 「もっと暴れろよ。活きのいいのの方が、懲らしめがいがある」 血まみれの男が正面に立ち、蹴りを入れてきた。今度は腹にあたり、広瀬は痛みで反射的に身体を前に縮めた。 それをぐいっと後ろから引っ張られる。再度蹴られると思い、身構えた。

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