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第74話

その時、階段の下のエントランスの方から、大きな音があがった。 数人が走ってくる足音だ。 広瀬を蹴ろうと足をあげた血まみれの男はとっさに足をおろし、そちらに目をやった。 広瀬を後ろから拘束していた男も、手は緩めないが、音の方向を見る。 「誰だ?」と血まみれの男が声を出した。 彼らにも心当たりのない集団の登場だ。 入ってきたのは、大ぶりの派手な柄シャツを着た若い男数人だった。 そして、後ろにはこの暑いのに黒いスーツを着込んだ男が一人立っていた。 この集団のリーダーだろう。 いかにも堅気ではない集団といった風情だ。 若い男の一人が、広瀬を抑えていた男と血まみれの男を見ると、「いたいた」と嬉しそうに声をかけてくる。 この人間たちは、カバンを探していた『組織』だ、と広瀬は思った。 二人の男もすぐにわかったようだった。 井上と兄貴分の姿を探すが、この集団にはいない。 どこにいるのか。 ビルから逃げたところを早速『組織』に捕まって、この場所を吐かされたのか。 それとも、彼らは逃げ切っていて、この集団は別な手がかりからここを探り当てたのか。 後者ならいい、と広瀬は願う。

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