75 / 130
第75話
『組織』の若い男たちは、何のためらいもなく、すぐにこちらに襲いかかってくる。
二人の男と乱闘になった。体格の良い腕に覚えのあるような二人だ。複数の男たちと激しいもみ合いが続く。
広瀬も『組織』の男に殴られそうになった。
だが、「まて」と鋭い言葉が、今まで乱闘を見ていた後ろのリーダーから発せられた。
リーダーは階段に足をかけ、スマホのライトをつけて場を明るくし、広瀬の顔を照らした。
「広瀬さんじゃないか」とリーダーの男は言った。「こんなとこで会うとは、奇遇だ」
男は、髪をオールバックにし、黒い上下に、シャツも黒、グレーのネクタイ。ヤクザ然とした風情のその男のことを、広瀬は覚えていた。
そして、本人は、若い男たちがやっとのことで取り押さえた二人の男の誰何の声に、自分で名乗った。
「黙打会の早乙女だ」
「黙打会の早乙女」と血まみれの男が繰り返す。「勢田のところの早乙女か?」と問いかけた。
「そうだ」と早乙女はうなずいた。
「勢田んとこのもんが何の用だ?」血まみれの男は早乙女をにらみあげている。
だが、勢田の名前に対しては怖れがにじみ出ていた。
ともだちにシェアしよう!