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第79話
ビル前には何台か車がとまっていた。
ほとんどは国産のワンボックスカーだったが、早乙女が乗っているのは想像通りの大型の黒いドイツ車だった。
広瀬は並ぶ車のナンバーをできるだけ見て記憶していった。後で、通報する必要がでてくるかもしれない。
早乙女は後部座席に座り、広瀬もそこに押し込められた。車の中は冷房がきつく効いていて寒いくらいだった。
カバンと白い封筒は早乙女の手にある。車が発進すると早乙女はスマホを取り出し電話を始めた。
静かな声で丁寧な挨拶をし、それから言った。「カバンは見つけました。はい。中身もあります。それと、思わぬ客人をお連れしますよ。驚かれますよ。はい。そうです。では、失礼いたします」
相手は勢田だろうか。
勢田はなぜカバンを追っていたのだろうか。あのUSBには何のデータが入っているのだろう。
車は夜の街を走る。
繁華街から首都高を経由して別の繁華街へ移動していく。湯気の中にいるような蒸し暑い東京の夜景が行き過ぎていく。
早乙女は、勢田との電話を終えると、今度はスマホの画面を操作し、メールを始めた。
何件か内容を確認し、返事をしている。しばらくすると電話がかかってくる。それには短く指示を与えていた。
色々と忙しいようだ。
早乙女は、ヤクザだけど、組織の中で、仕事ができる中間管理職といったとこなんだろうか、と広瀬は思った。今は偉そうにふんぞり返ってはいるが、気を遣うことも多そうだ。
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