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第80話
広瀬の視線に気づいた早乙女がこちらを見返してくる。
三白眼の冷ややかな視線だ。
「なぜあのビルにいたんだ?」
広瀬は答えなかった。
「お前がいるだけで、厄介ごとが増える」と彼はいまいましそうに言った。「最初から」
だが、その後は続けなかった。「まあ、広瀬さんが悪いわけでもないな。それはわかってるんだ、俺も」と彼は自分に言い聞かせるように言った。
そして、自分の仕事に戻って行った。
車が停まったのは繁華街の先のオフィス街のガラス張りの大型ビルだった。
その駐車場に入ったのは早乙女のドイツ車だけだった。
他の車は途中でどこかに消えて行った。拉致した二人の男も一緒に連れていかれたようだ。
広瀬は早乙女に促され、駐車場で車を降りた。そこには、二人のスーツの男が待っていた。
彼らは早乙女に挨拶し、広瀬に気づく驚いていた。
どちらもみたことのある顔だった。勢田の側近だ。
「これはまた、ずいぶん突然のお客様だな」と一人が言った。
「ビルに加次井の連中といたんだ」と早乙女が答える。加次井の連中というのは、あの体格の良い二人組だろう。
「へえ、なんで、また?」
「知らん。答えない。無理に口を割らせるわけにもいかない」
「広瀬さんが相手じゃなあ」と男は含み笑いで答えた。「だが、代表が喜ばれるだろう、久しぶりに直に顔を見られて」
「お前らは気楽でいい」と早乙女は言った。その声には確かにため息が混じっていた。
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