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第84話

おしぼりタオルを何枚も取り替え、衣類に着いた汚れも、拭いていく。 持ってこられたおしぼりはすぐに使われてしまった。 広瀬は身体がこわばったままで、避けることができず、されるがままになっていた。 そして、勢田がぬぐっても、衣類の汚れはほとんどとれない。 お盆をもってきた若い男には、この部屋で起こっていることが理解できないようだった。 彼からすると雲の上の存在の勢田が、見たこともない男に身体をよせ、熱心に汚れをふいて、世話を焼いているのだ。顔が引きつったままだ。 早乙女は、お盆をもってさがるように男に命じた。 見てはならないものを見た彼は、そそくさと去って行った。 勢田は、ふと、眉をあげ、表情を変えた。おしぼりから手を放し、首元に伸ばしてくる。 「これは、なんだ?」 指で、シャツの上から胸元をつく。 そこには、東城がくれた孔雀石のペンダント先があった。 勢田は、それを指でぐいっと押し、形を確かめた。 それから、いきなりネクタイに手をかけ、強引にむしり取る。 さらにシャツの襟元も広げる。 ボタンが2つ飛んだ。 乱暴なしぐさに広瀬は腕で自分をかばおうとしたが、勢田の方がすばやく、力も強かった。 彼は食い入るようにはだけた胸元の孔雀石を見ている。 「これは、どうしたんだ?彰也、お前の趣味じゃあないな。アクセサリーはつけたりしないはずだ」

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