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第85話

彼は、孔雀石を手に持つと、強くひっぱった。プチっと小さい音で、細い金の鎖がちぎれる。 「あ!」広瀬は声をあげた。頭の中が白くなる。 「なにするんだ!返せ!」思わず大声になった。 広瀬は孔雀石を持つ勢田の手から取り戻そうとし、彼の手につかみかかった。 何度も返せと繰り返した。 広瀬のその剣幕に、一瞬、そばにいた早乙女は固まったが、すぐに「やめろ!」と言って、広瀬を後ろから羽交い絞めにした。 彼も力が強いが、1対1なら広瀬にもチャンスがある。 しばらくもみ合いになった。 だが、すぐに後ろに控えていた他の男たちも加勢し、両手両足を押さえられる。 殴られたり蹴られたりはなかったが、腕をねじあげられ、紐のようなもので後ろに手をしばられた。 絨毯の上に転がされる。動けないように足首もきつく縛られた。 勢田は、広瀬を黙って見下していた。 それから、手の中の孔雀石に目を移す。 「お前の情人からの贈り物なのか?」薄気味悪い笑みを浮かべたままだ。「魔よけの石だな。縁起をかついでいるのか。役には立たなかったようだな」 彼はそれを無造作に部屋の隅にあったくずかごに放り込んだ。

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