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第86話

それから、勢田は、ソファーセットの上座に座った。早乙女にも座るようにいう。 部屋にいた他の男たちは、広瀬が動かないように警戒して立っている。 「それで、彰也はどうして加次井の連中と一緒にいたんだ?」と勢田は早乙女に尋ねる。 「わかりません」早乙女は手にしていたカバンを勢田に差し出す。さらに白い封筒も胸ポケットから出した。 勢田は、カバンを手に取る。「切られて穴が開いているな。どうしたんだ?」 「それが、見つけた時には切られていました」と早乙女はビルの階段で二人の男が言ったようなことを告げた。「中には、この封筒が入っていました。連絡通りです」 勢田は封筒を受け取り、人差し指と親指で中身のUSBメモリを取り出した。 それから広瀬に目を向ける。 「これを、探していたのか?」と質問された。 広瀬は返事をしようかどうしようかと迷った。 勢田に何を話すべきか、話さざるべきか、考えた方がいいのは、広瀬にもわかる。 勢田は、さらに質問してくる。 「なぜ、こんなものを追って加次井とあのビルにいたんだ?」 勢田は、机の上にUSBメモリを置いた。 それから、おもむろに紅茶のカップに手を伸ばし、一口飲む。 沈黙が続く。 勢田の方が先に口を開いた。 「答えるまで、何時間でもここで待つが?」

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