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第90話
「井上が、吐いた」と勢田は広瀬の目を見ながら言った。
どうやら井上は勢田達に捕まってしまったようだ。
組織から、会社から、二人で逃げるのびることを願っていたのに。
勢田が驚いている早乙女に説明する。
「お前たちがここに向かっている間に、捕まえていた井上が、一緒にいた見知らぬ男の話をしたんだ。その男は、USBの中身を取り出して、もう一度、接着剤でとめたらしい。中身はどこかに郵送していた、と口を割った」
早乙女は眉間の皺を深くする。「そうでしたか」と彼は言った。
ジロリと広瀬を睨んできた。怒りで額に血管の筋が浮かんでいる。
勢田が広瀬に質問してくる。「どこに送った?勤め先のタイセクトーンか?」
広瀬は無言を貫く。答える義理はないのだ。
「なんのために、中身を取り出したりしたんだ?」と勢田はさらに聞いてくる。静かな口調だ。だが、彼の目も冷えた鉄のようだ。再度、勢田は同じ質問を繰り返した。
「なんのためだ?タイセクトーンは、この中身を知ってどうするつもりなんだ?」
広瀬は口をつぐんだままだ。回答は自分の中にもない。
バン!と突然、早乙女が机を大きな音で叩き、立ち上がった。
「てめえ、舐めるのもいい加減にしろよ」と彼は言った。「下手に出てると思って、つけあがりやがって」近くに立たれ、怒鳴られる。「答えろ!」
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