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第93話

広瀬の全てを暴きたてるような視線だ。 広瀬は、身体を震わせた。 「彰也、中身はどこにやったんだ?」と再度聞いてくる。「お前の勤め先が、この中身を欲しがっているのか?手に入れて、どうするつもりなんだ?」 「中身のことは、俺は、知らない」と広瀬は正直に答えた。「だいたい、中身のデータに何が記録されているって言うんだ?」 「何も知らないのか?ほんとうに?」 「知らない。俺はカバンを探してただけだ」 「では、中身を郵送したのは会社の指示なのか?」と勢田は質問する。「お前の会社は、なにを企んでいるんだ?答えれば帰してやってもいいぞ」 「知らない」本当に何も知らないのだから、それしか言いようがない。 勢田は、広瀬の額に手を伸ばす。前髪をなであげられた。 「きれいな目だ」と彼は急に言った。「この目が涙にくれるのを見るのも一興だ」 冷たい指先が額から瞼、目尻をたどる。 勢田は、広瀬の目の色をじっと見ている。そして、目尻で指を止め、軽く押してきた。 広瀬は、身体が緊張で震え、体温が消える気がした。 だが、そこで、ドアの向こうで大声やなにか物が倒れるような音があった。部屋の中の全員が、ドアの方を見る。 ドアが開くと、そこに、東城が立っていた。 後ろには数名の若い男がいて、彼を止めようとしている。しかし、東城の怒りとヤクザ顔負けの暴力の色に手出しができない様子だった。 東城は、今朝広瀬が見たダークグレーのスーツにネクタイ姿だった。

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