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第96話

廊下に出ると、そこには数人の若い男たちがいた。こちらを睨みつけている者もいれば、起きたことにただただ困惑している者もいる。 事務所の出口には数人がしゃがみ込み、腕を抑えてうめいたり、介抱したりしている。東城はその前も黙って通り過ぎた。 東城が、ここに乗り込んで来てから、それ相応の争いがあったのだろうことは想像できた。 彼には、相手を容赦しない時がある。 後ろからは誰も追いかけてはてこなかった。 二人で、事務所を出ると、エレベーターに乗り込んだ。エレベーターが地下の駐車場に動き出す。 東城が初めて大きく息をはいた。そして、広瀬に顔を向けてくる。なにかもの言いたげだった。広瀬は、それみたことかとか心配しただろとか、彼からの批判や苦情を覚悟したのだが、東城は口を開かなかった。 駐車場には東城の大きなSUVが停まっていた。 他に誰かがいる気配はない。東城が一人でここに来たのは確かだ。 組対の課長に手回ししていたとはいえ、無茶をしたものだ。 車に乗ると、東城が説明してくれた。 「勢田のオフィスは、会社組織が借りてるんだ。特定の技術力のあるIT企業で、海外展開もしているらしい。それなりに体裁はまともな会社で、役員には勢田の名前はない。暴力団系の人間は一人も入っていないそうだ。あそこにいた若い衆の大半はシステムエンジニアだ。勢田の飼ってる腕に覚えのある私兵たちは、組事務所の方にいる」 ビックリはされたけど、たいした抵抗もされなかった、と彼は言った。 「2人くらい肩を脱臼したかもしれないけどな」 その程度で済んでよかったよ、と彼は他人事のように言った。

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